大野智史は1980年岐阜県生まれ。2004年東京造形大学卒業。現在山梨県富士吉田市を拠点に、制作活動を行っています。
大野は現在富士山麓にアトリエを構え、原生林の中で自らの感覚を研ぎすましながら、自然と人工の対峙と融合、時間を探求する絵画制作を行っています。大野の制作の背景には、東西の美術史と、絵画的な表現についての分析があります。デジタル時代を象徴するようなフラットな色面構成と描写的な表現を1つの画面で拮抗させ、感覚を多層化させながら、絵画の可能性を探求します。「Prism」シリーズは、ヤモリに食べられてしまう運命ながら、街灯の光に引き寄せられるように集まっていく蛾を目撃した経験から着手したものです。それは生きとし生けるものの極限状態の体現、そして光についての科学的研究を踏まえた究極の美の表現と言えます。
主な個展として、2007年にはホノルル現代美術館で個展「Prism Violet」を行い、小山登美夫ギャラリーにて5度開催しています。
主なグループ展に、「STANCE or DISTANCE? わたしと世界をつなぐ『距離』」(熊本市現代美術館、2015年)、「『アート・スコープ 2012-2014』─旅の後もしくは痕」(原美術館、東京、2014年)、「絵画の在りか」(東京オペラシティアートギャラリー、2014年)、「リアル・ジャパネスク」(国立国際美術館、大阪、2012年)、「VOCA展、2010年」(上野の森美術館、東京、2010年)、「越後妻有アートトリエンナーレ、2009年」(福武ハウス、2009年/旧名ヶ山小学校、新潟)、「THE ECHO 展」(ZAIM 別館、横浜、2008年)などがあります。
作品はビクトリア国立美術館、原美術館 ARC、トヨタアートコレクション、国立国際美術館ほか、国内外の個人コレクターにも収蔵されています。
個展
2023 | 「咲いては消える花々と 酔蜜の匂いと ぬるい裸足。」小山登美夫ギャラリー、東京 |
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2020 | 「Sleep in jungle.」小山登美夫ギャラリー、東京 |
2015 | 「Beautiful Dreaming.」8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery、東京 |
2013 | 「BYE BYE SUNSET」小山登美夫ギャラリー、東京 |
2009 | 「予言者」小山登美夫ギャラリー、東京 |
2008 | 「PHYSICAL TREE」magical ART ROOM、東京 |
2007 | 「Armory Show」(小山登美夫ギャラリーブース)、ニューヨーク 、アメリカ |
2007 | 「Prism Violet」ホノルル現代美術館、アメリカ |
2006 | 「acid garden」小山登美夫ギャラリー、東京 |
グループ展
2024 | 「KOSHIKI ART 2024」甑島、鹿児島 「神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond」神戸・六甲山上、兵庫 |
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2022 | 「済南国際ビエンナーレ」済南市美術館、山東省、中国 「雲をつかむ:原美術館/原六郎コレクション」原美術館ARC、渋川、群馬 |
2021 | 「CADAN Roppongi presented by Audi」六本木Hills café/Space、東京 |
2020 | 「顔」小山登美夫ギャラリー、東京 「LONELYLONELY論より証拠」駒込倉庫、東京 |
2019 | 「小山登美夫ギャラリーコレクション展 5」8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery、東京 |
2018 | 「画家の写真展」soda、京都 「大野智史スタジオエキシビション」大野智史スタジオ、山梨 「Visions of Exchange Mercedez-Benz Art Scope Award 2009-2017」Daimler Contemporary Berlin、ベルリン、ドイツ |
2017 | 小山登美夫ギャラリー グループ展、東京 |
2016 | 「IRRECONCILABLE」aura gallery beijing、北京、中国 「JAPAN 7」SILVERLENS、マニラ、フィリピン |
2015 | 「STANCE or DISTANCE? わたしと世界をつなぐ『距離』」熊本市現代美術館、熊本 「Come after Magic」aura gallery taipei、台北、台湾 |
2014 | 「小山登美夫ギャラリーグループ展」TOLOT/ heuristic SHINONOME、東京 「マインドフルネス!高橋コレクション展 決定版 2014」名古屋市美術館、愛知 「たくさんがいっぱい - 原美術館コレクション」ハラ ミュージアムアーク、群馬 「絵画の在りか」東京オペラシティ アートギャラリー、東京 「『アート・スコープ2012-2014』─旅の後もしくは痕」原美術館、東京 「コレクション Ⅱ」国立国際美術館、大阪 |
2013 | 「であ、しゅとぅるむ」名古屋市民ギャラリー矢田 第1展示室、愛知 「高橋コレクション展 マインドフルネス!」鹿児島県霧島アートの森、鹿児島[札幌芸術の森美術館、北海道 へ巡回] 「アートがあれば ll ー9人のコレクターによる個人コレクションの場合」東京オペラシティ アートギャラリー、東京 |
2012 | 「透明な混沌/Crystal Chaos」CUBE 1, 2, 3、東京 「リアル・ジャパネスク 世界の中の日本現代美術」国立国際美術館、大阪 「一枚の絵の力」NADiff a/p/a/r/t 地下1階、東京 |
2011 | 「常設特別展 Art in an Office —印象派・近代日本画から現代絵画まで」豊田市美術館、愛知 |
2010 | 「4人のペインティング」小山登美夫ギャラリー京都、京都 「It Must Be Your Sexy Way」AKI Gallery、台北、台湾 「VOCA展2010 現代美術の展望-新しい平面の作家たち」上野の森美術館、東京 「一枚の絵の力」アイランド、千葉 「Self Portrait - 私という他人」 高橋コレクション日比谷、東京 「東京造形大学絵画棟クロージング展『camaboco』」東京造形大学 旧絵画棟、東京 |
2009 | 「いのち・きもち・かたち ー原美術館コレクション展」原美術館 アーク、群馬 「原美術館コレクション展 ー日本の現代美術はおもしろい」原美術館 アーク、群馬 「福武ハウス2009:大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」旧名ヶ山小学校、十日町市、新潟 「甑島で、つくる。」甑島Art Project 2009、鹿児島 「neoneo展 Part1 [男子]」高橋コレクション日比谷、東京 |
2008 | 「原美術館コレクション」原美術館、東京 「THE ECHO 展」ZAIM別館、横浜、神奈川 |
2007 | 「ritual TEAM 08 大野智史」トーキョーワンダーサイト渋谷、東京 |
2006 | 「WORM HOLE」magical ARTROOM、東京 「マジカル・アート・ライフ展–あるコレクターの世界」トーキョーワンダーサイト渋谷、東京 「au courant」The National Gallery of the Cayman Islands、ケイマン諸島、イギリス海外領 |
2005 | 「乳化傷」PRAHA project、札幌、北海道 |
2004 | 「甑島で、つくる。」甑島 Art Project 2004、鹿児島 |
パブリックコレクション
国立国際美術館
シグ・コレクション
ジャピゴッツィコレクション
高橋龍太郎コレクション
テルモ株式会社
トヨタアートコレクション
原美術館 ARC
ビクトリア国立美術館
出版物
『SATOSHI OHNO』2021 小山登美夫ギャラリー 寄稿:大森俊克「大野智史の企画展と、その参加アーティストの表現についての考察」
「KOSHIKI ART 2024」甑島、鹿児島
【現在開催中】 「神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond」神戸・六甲山上、兵庫
「済南国際ビエンナーレ」済南市美術館、山東省、中国
グループ展「雲をつかむ:原美術館/原六郎コレクション」原美術館ARC、渋川、群馬
グループ展「虹の彼方 Over the Rainbow」YIRI ARTS、台北、台湾
グループ展「CADAN Roppongi presented by Audi」六本木Hills café/Space、東京
グループ展「LONELYLONELY論より証拠」駒込倉庫、東京
個展「Funny Smile」渋谷PARCO「Meets by NADiff」、東京
オープンアトリエとグループ展開催のお知らせ
グループ展「Visions of Exchange Mercedez-Benz Art Scope Award 2009-2017」Daimler Contemporary Berlin、ドイツ
グループ展「勅使河原茜と現代アートのコラボレーション」草月会館、東京
グループ展「IRRECONCILABLE」aura gallery beijing、北京、中国
グループ展「Japan 7」Silverlens、マニラ、フィリピン
グループ展「Come after Magic」aura gallery taipei、台湾
イベント「福永大介 × 大野智史 × 保坂健二朗 トークイベント」
グループ展「STANCE or DISTANCE? わたしと世界をつなぐ『距離』」熊本市現代美術館、熊本
グループ展「マインドフルネス! 高橋コレクション展 決定版 2014」名古屋市美術館、愛知
グループ展「アートがあればⅡ −9人のコレクターによる個人コレクションの場合」東京オペラシティ アートギャラリー、東京
グループ展「neoneo展 Part1[男子] 」高橋コレクション日比谷、東京
Satoshi Ohno
2015年9月30日(水) - 2015年10月19日(月)
hikarie8.com/artgallery/2015/08/satoshiohno.shtml
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CREDIT
Executive Creative Director : Kenmei Nagaoka (D&DEPARTMENT PROJECT)
Creative Director : Shin Sasaki (3KG)
Producer : Mitsuko Matsuzoe (D&DEPARTMENT PROJECT)
Director : Masaya Suzuki
Interview : Masaya Suzuki
Camera : Hirotatsu Koarai
Edit : Masaya Suzuki , Sakuzo Sakuma
Music : Yuichi Nagao
Production Manager : Tatsuya Kawano
Assistant : Sakuzo Sakuma
このインタビューは、「4人のペインティング」展のレセプション(1月14日)当日、ギャラリーで行われたアーティスト・トークの模様を編集したものです。
——— 作品についてお話しをお聞かせください。
大野 僕は基本的にペインティングをいつも制作しているのですが、それを表現したり展示する形態というのはインスタレーションしたり、ドローイングを貼りつけたり、けっこう西洋のアーテイストから影響を受けていると自分でも思っています。
自分の経験と自分が影響を受けたものから制作をしています。この絵は*1、自分のコンセプトのひとつである、木を描いています。杉の木を描き始めて5、6年くらい経ち、2年くらい描き続けていたら自画像みたいな感じになってきました。今回は顔の自画像のタイプの絵はないんですけど、それくらい身近なモチーフになっています。植物に興味を持って、原生林にも行くようになり、原生林に入ろうとする直前の、原生林の入口のような、門のような絵です。原生林に入っていくというのは、入っていきたいんだけど、身体的には入ることを拒む、そういう好奇心と自己防衛の拮抗しているような、そういう身体とか、感情の拮抗しているようなニュアンスを描きたいと思っています。
このタイプの絵は、模様とか装飾的なものを杉の木とリンクさせて、杉の木の枝のリズムや、象形文字的な役割を持たせています。また杉の木では描ききれない、原生林全体の感じを模様で表現してみたいと考えて描きました。これは門が閉じているものなのですが、去年の展示ではこれが開いて、その先の景色みたいなものをインスタレーションで表現しました *2。その内容とつながるのが向こうの黒い部屋のドローイングになるのかなと感じています *3。
あちらの黒い部屋が、ドローイングに囲まれているという展示の形態は僕が考えた訳ではないのですが、僕の表現を理解してくれたような展示ですごく嬉しかったです。原生林とかそういうことを考えている時に、原生林全体がひとつの母性というか母体のような感覚になって、その中に自分が入っていくような感覚になっていったんですね。だからこの部屋の空間が、母性というか、女性の子宮のような空間に感じられて、自分が感じていたものが再現されているみたいな感じを受けました。僕は多分、杉の木と自分が行き来するような感覚とか、女性身体と原生林の総体みたいなものがリンクする感覚とか、そういうのを考えるのはすごく好きというか、癖なんです。そういうように考えて表現することに手応えを感じていて、そういう空間の飛躍とか縮小によって、インスタレーションやペインティングで実現させたいなと今のところ思っています。
ドローイングの人物のイメージが両性具有だったり妊娠していたりしているんですけど *4 *5、それは杉の木と自画像みたいな行き来と似ています。植物に対して敬意みたいなものがあると思うんですけど、その敬意みたいなものを強引に、人間的に解釈してしまうと、ああいうドローイングみたいに醜いものになってしまうっていうイメージがあります。植物、花は、おしべとめしべが一緒になってその後実がなってという、そういうものに人がどれだけ近づこうとしても、たかだかあんな感じなんだよということを描くことで、植物と自分、植物と人の距離を描きたいなというところがあります。そのイメージがあの黒い部屋に囲まれていて、黒いというところが僕は特に嬉しかったです。去年東京でやったインスタレーションの個展とはまた違った解釈というか、同じだけどまた違った答えの出し方を自分が見れたかなという感じがあります。
だいたい僕は、ペインティングだけで展示する機会はあんまり作らなかったので、こういうふうに切り取られて、他のアーテイストと同じに並ぶっていうのはすごく興味深いです。
——— 門が今回は閉じているけど、前回では開いていたとおっしゃっていました。
東京の展示ではこういう壁だけでなく床も使ってインスタレーションでやったということが、門が開いていたということにつながるのですか?
大野 そうですね。つまり自分が入った中の原生林の空間を表現したということです。概念的には子宮の中で、母体、母性とか、そういうものでもある。僕にとって原生林は、生きているものと死んでいるものが半分ずつ存在している感じがあって、それも母性のように感じます。
また前回の展示は自分が原生林の中に入っていくとか、身体感覚みたいなものを自分の経験を通して出力した展示空間になっていました。原生林を再現したようなのではなくて、原生林で僕が感じたものを観客にどれだけ提示できるか。もちろん提示されたものを見た人がどう受け取るかというのはそれぞれですが。例えば杉の木をとっても、杉の木のストロークを強調したり、杉の木の枝のリズムだったり、筆を走らせる感じだったり、そういうものを僕は出力、表現したい。
具体的な杉の木に落とし込めないものを装飾として使ったりするというか…。わりと装飾に関しても考えたことがあって、図書館で調べたら、装飾や文明はその土地に根ざす植物などをルーツとしていることがあり、そこには自然観があるようです。そこで自分なりの象形文字を作るのがベストだなと思って、杉の木の感じを出力しています。
Interview by Tomio Koyama Gallery
——— まず、会場の構成についてお話をしてもらえますか?
大野 入り口の通路では、去年に横浜・ZAIMでやった”THE ECHO”展での展示作品が中心ですが、あのときまでは自分の中で感じたままの、枝分かれしたものを寄せ集めたような展示でした。どうして自分が原生林に惹かれたのか。なぜ、木や自画像を描き続けるのかという問いかけをZAIMまではやっていたんです。この”予言者”では、その寄せ集めたものはなんだったのだろうかと考えました。今回はひとつひとつの作品に大きな意味や関係があるんです。*1
——— 確かに、今回はZAIMの時とはまた違った雰囲気ですね。*2
大野 前にやった展覧会がなんだったのかということで、次の展覧会が始まっているようなパターンが多いです。了解していて作品を作っている部分と、何だかわからないけれど気になって作品を作っている部分が共生しているんですね。だから今回も完全に了解しているところと、「なんでこんなことをしたんだろう」という部分がありますね。オレンジの色一つにしても、前回小山登美夫ギャラリーでやった”Acid Garden”は、オレンジづくしだったわけですけれど「なぜオレンジなのか」「なぜ原生林なのか」みたいなことをいつも考えていました。例えば、プリズムが何なのかとか、今まで感覚的にチョイスしていたものが、徐々に「こうなんじゃないか」と見えてきたことはありますね。
——— 大野さんはずっと原生林を主題に創作を続けていますよね。
大野 原生林はただ自然っていうものじゃなしに、母体みたいなものだと思うんです。その中に自分が入り込んでいくような感覚があります。原生林というのは、包まれるとか、守られるというような印象だけじゃないんですね、できれば入りたくないというような。キャンプに行く感じとも全然違って、入りたくないんだけども、惹かれてしまうという。ちょっと嫌だけど、母性も感じるみたいな。両義的なものなんです。
——— 原生林と共に、プリズムというシンボルも繰り返し描いています。*3
大野 自分と原生林という中に、プリズムという象徴的なものが入ってくることで、関係が三角形になった。シンプルじゃなくなってきたというか。それで、絵もインスタレーションも、僕と原生林という個人的な関係から、もう少し個人的じゃない、感覚的な言葉ですけれど、表現にも絵にも空間性の幅が、何にも属さない幅みたいなものが出てきたと思うんですよ。
——— プリズムには、原生林と大野さんという個人の関係を変えるほどの影響力があるのでしょうか。
大野 光っていうのはいろんな、人間もそうだし、太陽って考えればわかりやすいけれど、万物の原動力ですよね。そういったものを人工的に自分の表現の中で、太陽としてじゃなくて、生き物が求めてしまう存在の対象として描いています。理屈じゃなく、真っ暗なところで、灯りがポッとついたら、たぶん人はそっちの明るいほうにいくんじゃないかというような、人や生物がどうしても惹かれてしまう象徴としての、「光」という存在そのものです。
——— 今回は人物の絵がたくさんありますね。自画像もあるし、妊婦の絵もあるし、笛を吹いている女性の絵もあります。*4 *5
大野 ZAIMでも出していた作品は基本的に自画像なんですけれど、両性具有のイメージが多いですね。両性具有は人間が植物に憧れた結果なんです。植物はおしべとめしべが一緒で、最後に実を付けるわけですが、そういった完結した存在に人は憧れた。その結果、僕からしたらすごく醜い姿になった。僕が原生林に入っていった理由も、人と植物との絶対的な差を感じたからです。人は植物に敬意を払うけれど絶対に植物のように無言のままに生きていくことはできないという、その絶対の差みたいなものを描きたい。業を背負う人間と植物との差を端的に表したかった。花は美しいけれど、同じような姿になれば人はこんな風になるんだよ、みたいな意味合いがあって。
——— なるほど。廊下の壁に描かれたスプレーペインティングや、絵画にも描かれている模様のような、象徴的なモチーフは何でしょうか?*6
大野 この黒いラインみたいなものは、杉の木とか、自画像でもそうなんですけど、末広がりなんです。
——— 末広がり(笑)
大野 杉の木の形状や、髪の毛のストロークの末広がりが模様になったものなんです。象形文字みたいな感じですかね。
——— 杉の木や人物を描き込まなくても、最低限の要素でそれを表すというような?*7
大野 具体的にものを描かなくても、ストロークで純度の高い表現ができるんじゃないかと試してみました。クオリティを考えないと出ない質感とか、スピードを活かさないと出ない質感とかがあって、それが極端に分かれた結果として出て来たのがこの模様です。オレンジ色のこのラインは、絵具の質感とかその色からして、人だな、とか。以前acid garden展でオレンジ色を使っていたときは感覚的に選んでいただけですが、今回は肉体的なものを表す色としてオレンジを使いました。
——— ギャラリー2には女性を描いた3枚のペインティングが展示されています。彼女たちは古典的な楽器を持っていますね。リュート、縦笛、小太鼓ですか。*8
大野 メトロポリタン博物館で、楽器の展示室があって、そこでスケッチしたものから選びました。この3枚は6階の大きい木の絵と関係があるんです。6階の木の絵は、森の入り口なんです。そこのゲートがクローズしているという絵なんですね。それを開けようとしている、三人の演奏している女性たち。*9
——— ここ(7階)はゲートがオープンしているけど、下(6階)はクローズしているんですね。
大野 最初はこれを6階でやろうと思ったんです。ただ、ちょっと絵がうるさくなって、7階のほうがいいなと。真ん中で笛を吹いている人が今回のタイトルの女性です。*10
——— 「予言者」?
大野 予言者です。予言者というよりは、誘導者といったほうがいいのかな。他の二人は使者というか。6階の絵のゲートが開いている状態の絵が、7階の一番大きな倒木の絵なんですね。倒木が、開いたゲートを目指して進んで行く。笛の音色でそれを誘導している人(予言者)がいて、そしてすべてのエネルギーの源としてプリズムが描かれている。プリズムの形も子宮に似せています。
——— なるほど。そんなストーリーがあったのですね。ギャラリー2に展示されている三枚のうち、予言者が描かれているペテンティングで彼女が持っているのは砂時計ですか?
大野 そうです。これは描くかどうか迷ったんですよね。砂時計には、時間をコントロールする意味合いがあるんです。これは裏の裏コンセプトなんですけれど、この三枚は、過去と現在と未来を表しているんです。三枚目の足が未来にちょっとかかっている。これは言わないほうがいいのかななんて思っていたんですけれど。まったく違う物語の話で、時間の流れみたいなものを描きたいんです。例えば、村上隆さんの「727」にはタイムラインを感じる。727年からのタイムラインで、DOB君がこっちに来ているような。「727」は3枚に分かれていて、右と真ん中のパネルにDOB君がかかるように描かれている。左には何も描かれていない。それは過去・現在・未来を描いていると解釈できないかなと。それにオーバーラップするような作品をいつか作ってみたいなと思います。
——— 最も大きなこの倒木の作品は、様々な要素を一枚で表現されているんですね。*11
大野 全体のインスタレーションを一枚で表現できるように描きました。今までの展示は枝葉に分かれていたので、インスタレーションを完成させないと、展覧会の趣旨がわからなかったのだけれど、それを一枚で観られるように。
——— だから、予言者もいて、倒木もあり、プリズムもある。
大野 画面中央の倒木は、ちょっとわかりにくいかもしれないですけど、太めの枝は足みたいになっていて、歩いているんです。あれは男性そのものなんですよ。
——— 倒木は描くのに時間がかかっていそうですね。これは全体としてはどれくらいの時間がかかりましたか?
大野 手をつけてから3ヶ月くらいです。それまでに構成の準備をしたり、他の作品と同時進行だったりもしますが。まずドローイングを40–50枚描くんです、ペンだけで。その中から着彩するものが出てきたり、さらにそれをペインティングにしたり。この作品も、プリズムだけのドローイングがあったり、倒木だけのドローイングがあったり、背景の色は色で絵具でバッとやったりとか。
——— 実はもっと全体的なインスタレーションが展開するのではと思っていたのですが、ウォールペインティングなどは通路だけで、その他の部屋は巨大なペインティング群を中心に見せる展示になりました。
大野 “Acid Garden”からの課題として感じているのは、展示空間から離れたとたんに作品がコンセプトを失うようではダメだなと思ったんです。一つ一つの作品の説得力とクオリティ、強度を保ちたい。
自分の表現を突き詰めながらも、環境とか、その中の条件とか制限を利用して自分の作品に幅をつけるようにはしています。人の身長を超える絵と、超えない絵では、絵の見方・感じ方が変化すると思うからそれを試してみたり。僕のやりたい絵のタイプは、認識する絵というよりは、体感するような絵。小山登美夫ギャラリーという空間には、それだけの可能性を感じていて、美術館並みのボリュームで展示ができるんじゃないかと思っていたんです。小山さんに好きにやっていいですよ、なんて言われたのでつい(笑)
——— とても成功していると思います。森の不穏な空気や、光が差し込んでいる雰囲気を体感できる、感覚的なインスタレーションだと思いました。
大野 大きさのメリットとデメリットみたいなものを制作しているとすごく感じるんですね。大きければいいのか、インパクトがあればいいのか、という問題が常につきまとうと思うんです。そういうこともこれから考えていかなければならないだろうと思うんですけれど、でもこのギャラリーだったら、きっとこういうのができるだろう、というのがあるんですね。
——— 実際に展示を終えてみて、構想されていたイメージは実現しましたか?
大野 やろうと思ったことは…できましたね。どんな風に周りに映るのかという不安はありますが。例えば妊婦とか人物をどう描くか、古典的なイメージがどうしてもつきまうとかいう問題があると思うけど、それは現代美術の価値観を取り払ったとしても自分の絵が「いい絵」なのだろうかとか、現代的であるとはどういうことか、ということにリンクしていたり。描きながらどんどん描くことが制限されていくけど、そういうせめぎ合いの中で生まれたのが今回の展示でしょうかね。
——— この後には、越後妻有アートトリエンナーレが控えていますが、そこでもせめぎ合いの展示が待っているのでしょうか?
大野 越後妻有はもう少しボリュームアップして、うるさくしてみたい。建物を感じられる展示にしたいです。体育館に入ったら、体育館のボリューム自体を感じられることが理想ですね。
Interview by Tomio Koyama Gallery
Photo / Kei Okano:installation view
Ikuhiro Watanabe :works