伊藤 彩

「猛スピードでははは」

BELIEVE 2012 oil and crayon on canvas 218.5 × 291.5 cm ©︎Aya Ito

【作品紹介】

伊藤 彩の作品にはゾンビやお化けなど、また「アーティスティックではない、子供の下ネタ」のモチーフが登場します。鑑賞者はまず驚き、笑い、そして彼女が思いつくまま奔放にこれらを描いているのかと考えるかもしれません。しかし独特の空間性をもつ伊藤の作品は、様々なプロセスを経て構成されているのです。伊藤は作品ごとにマケットを作り、写真を何枚も撮りながら視覚的効果を検討したのち、ペインティングを制作するという「フォトドローイング」と彼女が呼ぶ手法をとっています。「日々の経験に妄想や空想を加えたもの」を動員しながら進行するこのプロセスのなかで起こる偶然性、それを伊藤はある種の濃密なリアリティへと変換させます。物語性が無く、あったとしても無意味であるという彼女の作品のもつ奇妙な現実感は、不条理にして不安定ながらもいきいきとし、鮮烈な印象を与えるとともに、鑑賞者の意識を異化するように思えます。
伊藤は「イメージよりも写実、そして単なる写実よりもコラージュに惹かれた」と言います。ペインティングだけでなく、立体、インスタレーション、写真といった様々な要素を縦横に使うことで、伊藤は独自のリアリティにアプローチし、世界の別の見方を示します。

【展覧会について】

本展では上述の「フォトドローイング」のプロセスを用いて制作した、主に女性がモチーフの油彩の新作ペインティング約10点と、セラミックや木、紙粘土の立体作品を展示いたします。
展覧会タイトルについて、伊藤は以下のように話しています。「友達と会話をしている時、本の話になりました。その本のタイトルは『猛スピードで母は』(長嶋有著、文藝春秋/文春文庫)なのですが、私は間違えて『猛スピードでははは』と言いました。間違えた事で、猛スピードで『ははは』と言いながらかけ抜けていく人を想像し、妄想が止まらなくなって、このタイトルの作品を作りたいと思いました。」偶然からふくらむ想像に作品のインスピレーションを得る伊藤は、今回もテーマや物語は設けずに作品がもたらす雰囲気や存在感を重要なものとします。是非ご高覧下さい。