【展覧会について】
桑久保 徹は1978年 神奈川県、座間市生まれ。2002年多摩美術大学絵画科油画専攻卒業。現在も東京を拠点に活動を行っています。2002 年、東京都現代美術館主催のトーキョーワンダーウォール公募2002で「トーキョーワンダーウォール賞」を受賞。2004年のGEISAI-5にて、小山登美夫がスカウトしました。
彼は自分の中に架空の画家を見いだすという演劇的なアプローチで制作活動をスタートします。印象派の画家たちが行ったように海辺にイーゼルを立てて絵を描いたり、描いた絵を背中にくくりつけて「絵を売り歩く放浪画家」としてパフォーマンスしたりと、彼がイメージするいわゆる「画家」「絵描き」をいわば演じてみる、「敢えて『画家宣言』をする」(作家談)ことが、最初の制作のきっかけになりました。
画家に扮した彼が好んで描くようになったのは、多くが海のモチーフです。オイルを混ぜず、油絵の具だけを分厚く盛り上げて描いていくタッチは、現代美術というよりも明らかにゴッホの作品を想起させます。「絵というものが現代美術では攻撃対象になることもあるけれど、それなら現代美術というのは一体何なのか。美術という名付けえぬもののはずが、どこか現代美術「的」な、言語無しでは理解しがたいものに偏っていはしないか。自分が美術をやっていく上で、(人に素直に喜んでもらえるような)自然な形を考えると絵だと思った」と作家は言います。
現代においてはもはや古典になりつつある印象派の技法と、桑久保自身の中にある現在の心象風景が重なり合って作品を作り上げています。例えば『海の向こうで戦争が始まる』という作品では、砂浜にたくさんの穴が掘られ、それぞれの中から人間の腕が伸び、1輪の花を掲げています。この作品は、戦争や災害が起っても何もできず、ただ身を隠して息を潜めているしかない人間が、せめて花をたむけるという桑久保自身が作った短い小説から得たイメージです。