» 作品紹介
菅は、1960年代終わりから70年代にかけて日本美術界を席巻した「もの派」と呼ばれる潮流の代表的作家の1人です。多摩美術大学で教鞭を取り始めた斎藤義重に学んだ菅は、木材や石、金属片、ガラス板などの素材を様々な方法で組み合わせ、展示空間に配してきました。
ある一つの木片があった時、私たちはその表面と断面、部分と全体、一つのシルエットとして見える形からその組成細胞まで、様々なレベルでそれを認識することができます。逆に考えれば、私たちの意識がその木片を捉えない限り、それはそこには存在しない、とも言えます。一つの石にはその他無数の石の理が脈を打ち、それぞれの物体にはそこに宿る潜在的な宇宙がある……菅はものの背後に潜む流れを汲みとり、それらを時に融和し、時に対峙させながら、展示空間全体に軽やかな空気の流路を、自由自在に切り開いていきます。周囲、環境、といった菅作品に共通するテーマは、目に見える表象から常に意味や象徴を求めようとする我々の視線をはねのけ、代わりに今まで目にした事もないような、新しいものとものとの関係性を浮かび上がらせます。
最もありふれた素材によって、最も新しい世界の幕が上がるとき、私たちは普段の意識からは解放された、もう一つの眼を手に入れることができるのかもしれません。
» 展覧会について
本展では、2007年から08年にかけての菅の新作を、2フロアに渡って一挙に展示致します。
今回最も特徴的なのは、作家が意識的に「色」を使用していることです。大きなパネルに、グラインダーで絵画のような彫り込みをほどこしたシリーズ『複素化』は、木そのものが持つ木目の素材感と、それを覆い隠すような強い彩色とのコントラストが、拮抗した緊張感を放っています。立体、ドローイングを含め、総数20点近い新作が並びます。
作家の新たな試みを、どうぞこの機会にご高覧ください
» 作家プロフィール
菅木志雄は1944年、岩手県盛岡市生まれ。68年多摩美術大学絵画科を卒業。68年の初個展から現在に至る40年のキャリアの中で、数多くの展覧会に出展してきました。
主な個展に「揺らぐ体空 菅木志雄インスタレーション」(岩手県立美術館、05年)、「菅木志雄 – スタンス」(横浜美術館、99年)、「菅木志雄展」(広島市現代美術館から巡回、伊丹市立美術館。神奈川県民ホールギャラリー、千葉市美術館、97年)など、小山登美夫ギャラリーでは06年以来2度目の個展となります。国際的にも活躍の場を広げ、78年には第38回ヴェネチア・ビエンナーレ(日本側コミッショナー:中原佑介)に出展。その他「前衛芸術の日本」(ポンピドゥーセンター、86年)、「戦後日本の前衛美術」(横浜美術館からニューヨークのグッゲンハイム美術館へ巡回、94年)など、多数の展覧会に出展しています。
今年8月には、栃木県の板室温泉大黒屋にて、作品を常設する『倉庫美術館』を開館します。