柏原由佳

「Polar Green」

Milford 2019 tempera and oil on canvas 230.1 × 170.1 cm ©Yuka Kashihara

柏原由佳 / 個展 「Polar Green」

2019年3月14日[木]- 2019年4月1日[月]
会場:8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery、渋谷ヒカリエ8階

http://www.hikarie8.com/artgallery/2019/03/yuka-kashihara.shtml

この度、8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Galleryでは、柏原由佳展「Polar Green」を開催いたします。

柏原の絵画制作は、西洋の伝統的な古典絵画技法に基づき、半油性下地を独自の配合で混ぜ合わせてキャンバスに塗りこむ作業からはじまります。そこでできあがったオリジナルのキャンバスの上に、油絵の具を日本画のように薄く溶き、同時にテンペラ絵具も用いながら描いて独特な深い色彩を作り出します。

彼女の作品世界では、現実の景色と内なる想像の空間がゆるやかに編み込まれて存在します。その背景には、日本を離れ渡独して制作を続ける彼女の、内と外の「距離」への興味が介在しているといえるでしょう。ドイツと日本の物理的な距離、それぞれの文化間での精神的な距離、また日本人としての自分と、ドイツにいる自分との距離。それは彼女が作品で繰り返し取り上げる洞窟、穴、山、湖といったモチーフを、内省的な思索をシンボリックにあらわすものへと昇華し、大地にひそむ根源的な自然のエネルギーをも喚起させるのです。

今回の展覧会タイトル「Polar Green」は、柏原がニュージーランドの有名な遊歩道「ミルフォード・トラック」(全長54km)を4日間かけてひたすら歩いて体感したことに端を発した造語です。「ミルフォード・トラック」は、砂漠からジャングル、氷山の一角、火山など、「世界の縮図」と呼ばれるほど世界中の様々な風景が集結しているような美しく不思議な場所です。その歩くたびに刻々と変化する景色を目にし、そこで見えた驚く程鮮やかなミントグリーンのような湖の色が彼女の心を激しく揺さぶり、その体験が元になっています。

柏原は次のように述べます。「ミルフォード・トラックは、1日20人までの入山制限をしていて、登山中は人間や文明の気配を感じる事もなく、恐竜がいないのが不思議なくらいでした。ゴンドワナ大陸の切れ端を歩いているなか、年間を通して、雨が降っていると言われるこのトラックで、びしょ濡れになったままの登山は、自然の「あるべき姿」といった感じで、緑は活き活きと輝いていました。」

この大自然の中で過ごした経験は彼女の制作にも影響を与えました。
「昔は、絵を描いているときは、安全圏、といった感じで、穴を掘っているような感覚があって内側へ内側へこもっていく感じがあリました。今回の旅を経て、外側の出来事を自分の中で濾過して、そしてまた自分の内側を通り越してまた外に出ていく、みたいな作業が続いています。」

新作では、草木の繊細な描写の上に、原生林のエネルギーを感じさせるような大胆なタッチが垣間見えます。

本展は、この2年間で柏原自身がマレーシア、奄美大島、ニュージーランドでキャンプを行い、原生林からインスピレーションを受けた新作のジャングルシリーズを発表します。これらは、彼女の記憶とイメージ、最近見たもの、自分の中にある景色とが組み合わさって、描いては消してを繰り返して現れた景色たちだといいます。
小山登美夫ギャラリーでは、3年ぶり5度目の個展となる本展。原生林のみずみずしい空気、透明性と独特な濃密さが共存した柏原由佳の作品世界をぜひご高覧下さい。

「Polar Green」

2、3ヶ月くらい、山や森、みずうみの近くを絵を描きながら旅をした。
昔から、自分が自分自身ではないような感覚になる事がある。
水に浮いているような、近くて遠くて他人事のような、別の世界の出来事。
それで、ほんの少しだけ怖い。

ゴンドワナ大陸の片隅のジャングルで、溢れかえる雨の中、荒れ狂う緑に襲われた。

圧倒的な幸福感に支配されて、少しだけその世界のなかに入れてもらえたような気がした。
緑の中に入れてもらえた時のように、絵を描いている時が自分に一番近い。

ー柏原由佳