上田義彦

「林檎の木」

林檎の木 6 2017 c-print, acrylic frame 63.1 × 52.8 cm ©Yoshihiko Ueda

この度小山登美夫ギャラリーでは、写真家上田義彦の個展「林檎の木」を開催致します。
アート写真,広告写真というカテゴリーやジャンルにとらわれず、35年もの間第一線でシャッターを切り続けてきた上田義彦。 自然、静物、人物など多様な主題を扱いつつも、上田は誠実で一貫したまなざしで目の前の世界の最高の瞬間を捉え、観るものを魅了してきました。

【「林檎の木」について】

本展で発表する新作「林檎の木」は、2013年に上田が群馬県川場村で開催されている「川場村ネイチャーフォトフェスティバル」の審査員として 同地を訪れたことから端を発します。タクシーで会場に向かう際ふと車窓から見えた、たわわに実った林檎の木。 上田は一瞬で眼を奪われ衝動的にタクシーの中から撮影しましたが、その時の印象が鮮烈で「また撮りたい」という強い想いが残りました。

その後2、3年の間があき、再び川場村を訪れ8×10のカメラで撮影。それは最初にその木を見た時と同じ11月でした。 上田が魅かれたのは、林檎の赤、強い太陽の光、それらの生命力。そしてその木は川場村で一番古い林檎の木であり、そこから醸し出される歳月にも魅せられたのでした。 太陽の光が林檎を照らして林檎の赤い色が生命力を放ち、その反射と充満した光の中でシャッターを切る瞬間は、上田のカメラ越しの「眼が歓び」、身体全体に歓びがわきあがったと言います。 「林檎の木」には、林檎の木という被写体を通して、生命力やその木が経て来た年月、そしてそこに出会えたという上田の高揚した気分までもが写し出されているかのようです。

【「破片と全体」、生命を生む力や世界の成り立ち】

上田の作品は、明確な被写体を映し出しているというよりも、眼には見えないなにかの気配や、その背後にある全体に思いを馳せている上田の眼差しそのものが写し出されているように見えます。

ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー共同ディレクター、美術評論家のハンス・ウルリッヒ・オブリストは、上田義彦の作品集「A Life with Camera Yoshihiko Ueda」に寄せて次のように述べました。
「(上田作品の)根底にあるものは『全体性の追求』という不断の目標だ。、、、(中略)つまり「全体」とそれを取り巻く環境、その本質とそこに具わるエネルギーを捕縛しようとする試みに他ならない。」

また、上田本人もインタビューの中で次のように語っています。
「僕が世界を巡って撮っているのは、いわば、この世界の破片のようなものかもしれません。しかし、その破片は全体を想像させるものです。そこには僕が感じた世界が写っています。誰かが撮った世界ではなく、改めて自分自身の目で世界を見て捉え直す。そして、ファインダーの中の小さな世界に、太古の時間や生命を生む力が見えてくる、世界の成り立ちや、いろいろなことを教えてくれる。」
(「上田義彦 スペシャルインタビュー」キャノンギャラリーS スペシャルサイト、2015年)

この自らの表現に対する上田の思考形成には、2011年3月の東日本大震災直後、屋久島へ渡航し、樹齢1000年とも言われる古木や原生林との対話により撮影された自身の作品「Materia」が大きなきっかけを与えました。

「(「Materia」とはラテン語で【木の幹】そして【生命を生む力】という意味であり)、この言葉の意味を知ったとき、「Quinault」以降、僕がぼんやりと抱き続けていた「新しい写真」の位置(アドレス)に対する思いがこの言葉によってすっきりと晴れたような気がしました。この言葉の指し示す通り、生命を生む力、この世の成り立ちを見つけたいという写真表現の方向性が定まったのです。」
(「上田義彦 スペシャルインタビュー」キャノンギャラリーS スペシャルサイト、2015年)

目の前に広がる林檎の色や光、木々や緑、人物にいたるまで、世界の「破片」を筆致を思わせるような丁寧さで繊細に表現しながら、それらが繋がり形成する太古から続く大地、またそこに潜む生命を生む力、この世の成り立ちという遥かな「全体」を捕らえ写し出す。それこそが上田作品の真髄であるといえるでしょう。そしてそれは「世界に教えられることを喜びながら写真にしていく」という世界や自然に対する畏敬の念と、そこに正面から向き合う上田の真摯な姿勢の表れでもあります。

【「親密な距離」と、写真表現における新たな場所】

上田は、「林檎の木」の撮影後、当初はいつも通りの大きなサイズで現像しました。ただ、何かが違う。大きく引き伸したものは、迫力、インパクトはあるけれど、何かが失われ、「距離」を感じた。そこには自分が「林檎の木」を目の前にして感じた「親密さ」がなかったと言います。
「親密さ」を出す為に、普段慣れ親しんでいる、8×10、4×5、6×7など、写真サイズをすべて試しながら、思考錯誤した結果、87×68mmというサイズに決定しました。作品を撮影時の8×10から縮小するとは、上田にとって初めての試みでした。そしてそのイメージと、大きく充分にとられた印画紙の白による余白との絶妙なバランスと関係性。これが上田の表現する「親密な距離」でした。

上田の言う「親密さ」とは、以下の自身の言葉がそれを示すと言えるでしょう。
「”風景”という言葉に具わる固定観念に引きずられて撮影された風景写真には興味がない。人間と自然界との私的交流から生まれた再発見がそこになければならない」

「この親密な距離が見つかってうれしい、見つけた、捕まえた、自分にとって新しい場所におりたった気分だった。」と上田は語ります。撮影した時に感じる「捕獲した」という気分が再度感じられた、写真という行為から一歩外に出たような「再発見」を生み出したのです。上田は写真表現を初めてから40年、自分が感じた強い衝動や印象、そしてそれに出会えた歓びを作品の中にとどめようと必死にもがきながら、今も常に新しい表現を写真というフィルターを通しながら模索し、探求し続けています。

上田は、「いつも印画紙の白が綺麗だと思ってた。印画紙の白は光の色だ」とも言います。その白は上田にとって印画紙にしかない「親密な写真の色」なのです。印画紙の白に浮かぶ87×68mmの小さなイメージに眼を凝らしながら、遥かに広がる時空間を垣間みる。それは私達にとっても作品鑑賞における「再発見」といえるのではないでしょうか。
本展では新作約10点を展示致します。上田義彦の新しい眼差しを体験しに、ぜひお越しくださいませ。

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プレスに関するお問い合わせ先:
Tel: 03-6459-4030 (小山登美夫ギャラリー オフィス)
Email: press@tomiokoyamagallery.com (プレス担当:岡戸麻希子)
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作家プロフィール

上田義彦

1957年兵庫県生まれ。写真家福田匡伸氏、有田泰而氏に師事した後、1982年独立。エディトリアルワークをきっかけに、広告写真やコマーシャルフィルムなどを手がけ、東京ADC賞最高賞、ニューヨークADC賞等、国内外の代表的な国際デザイン賞を多数受賞。作家活動は独立当初から継続し、2014年に日本写真協会 作家賞を受賞。2015年までに32冊の写真集を刊行。2011年よりGallery 916を主宰し、写真展企画、展示、写真集の出版をトータルでプロデュースしています。現在多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授。

主な個展に「上田義彦『Photographs』」(東京都写真美術館、東京、2003年)、「Chamber of Curiosities」(東京大学総合研究博物館、東京、2006年/国立台湾芸術大学芸術博物館、台北、2011年/リヨン市ガダーニュ美術館、フランス、2011年へ巡回)、「QUINAULT」(G/P Gallery、東京、2009年/Michael Hoppen Gallery、ロンドン、2010年/TAI modern、サンタフェ、2010年へ巡回)、「鎮まる」川瀬敏郎(花人)×上田義彦(写真家)(細見美術館、京都、2011年/G/P gallery、東京、2011年/東京美術倶楽部、東京、2011年へ巡回)、「縄文人展」(国立科学博物館日本館、東京、2012年)があり、主なグループ展に「ニュー・ジャパニーズ・フォトグラフィ 1990’s [無意識の共鳴]」(横浜市民ギャラリー、神奈川、1996年)、「Reverdecer, Paisaje 1969-2013」(メキシコ国立芸術院、メキシコシティ、2013年)があります。

また、作品はエルメス・インターナショナル(フランス)、ケンパー現代美術館(アメリカ)、ニューメキシコ美術館(アメリカ)、フランス国立図書館(パリ)、Stichting Art & Theatre(オランダ)に所蔵されています。

*その他の作家情報は下記URLをご覧下さい。
http://www.yoshihikoueda.com/

  • 林檎の木 6 2017 c-print, acrylic frame 63.1 × 52.8 cm ©Yoshihiko Ueda
  • 林檎の木 6(部分) 2017 ©Yoshihiko Ueda