福井 篤

the eyes of the midnight sun

Installation view from “the eyes of the midnight sun” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, Japan, 2006 © Atsushi Fukui photo by Yoshitaka Uchida / nomadic studio

作品紹介

福井 篤の絵画作品には、常にある種の静けさをたたえた、理想郷的な世界が広がっています。それはある時は抽象的な矩形として、またある時は非常に具体的な物語を紡ぐモチーフとして描かれますが、私たちが一貫して意識せざるを得ないのは、作家自身の視点はどこにあるのかということ―言い換えれば、福井篤という作家と、この世界との距離感です。
彼の描くイメージは暗示に富み、私たちはそれが何であるかをすぐに感知します。森に横たわる少女、キノコのシルエット、部屋の中のもう1つの入り口、というように。けれどそこに何かの意味を見出そうとすれば、私たちはそれ以上作品の中へ踏み入ることはできません。
01年の< morning glory >展では、極度に細部を排除された、奇妙な心象風景が並びました。『大海蛇』と題された作品は、一見、床の上に散らばった紙くずを大写しにしたかのような形が描かれています。けれどその題名からも想像できるように、その不可思議なパース、輪郭と色面だけがなぞられたCGのようなイメージの抽象性によって、私たちはそこに広大な空間が広がっているかのような錯覚に陥ります。
続く展では、より具体的なモチーフが登場しますが、対してその世界の抽象性との振幅はより激しく、ダイナミックになりました。作品『ゆうれい峠』では、花柄の布団が、緩やかな山並みとなって彼方へと続いています。それは紛れもなく布団であると同時に山であり、私たちはこのメタフィジカルな世界に、軽いめまいに似た感覚を覚えます。『なまけもの』では机の上に衣類が放置されていますが、ここでもその布は小さな山の連なりとなって机の上に存在します。背景は曇り空のようですが、もしそれが本当に空だとすれば私たちは身の丈をも越えるような巨大な机を見上げ、更にその上にミニチュアの山脈を垣間見ていることになります。
04年のでは、それまでマットに塗りつぶされていた画面から一転、細かく描き込まれた作家の筆致が見てとれる、映画のスチールのように断続的に連なる連作が生まれました。ここでは、森の中にいる少女や鹿、毛皮をかぶった奇妙な精などの作品と、その森と宇宙的につながっているようなもうひとつの世界が展開されました。飛蚊症の視界のような淡い色の飛沫に覆われた美しいマチエールとあいまって、これらの作品は御伽噺や童話を思い浮かべずにはおれない、圧倒的な物語の力で満ちていました。けれど同時に、私たちはその透徹した世界の体熱の無さに、入れ子構造にも似た作家の思惑をも感じずにはいられなかったのです。

展覧会について

本展で登場する作品は、「大昔の記憶、最初に地球に来たときのことを思い出すような」イメージで描き進めた、と福井は言います。『arrival gate』と題された作品には、暗い宇宙でうっすらと光を浴び始めた地球が描かれています。それは私たちの知る地球の写真のように青々とした星ではなく、皆既日食のようなシルエットとしてぼんやりと浮かんでいます。
『Metatron(七人の大天使)』で大画面いっぱいに描かれる、草原に屹立する大樹の風景は、太古の昔、地球にたどり着いた自分が最初に目にした原風景であるかのような、奇妙な既視感を漂わせています。モナリザの背景のような小宇宙的風景を前に浮かぶアンドロギュヌス(両性具有者)のヌード『植物学者』は、神話的モチーフでありながらも、今までのどの伝承とも結びつかない、むしろサイエンスフィクションの世界を彷彿とさせます。
繰り返し登場するキノコは、私たち人間の感覚を毒性や幻覚作用で狂わせるものです。浮遊する作家の視点は、自分という存在を乗り物としてあやつるように、私たちが現在生きているこの世界、地球、という存在をも、遥かに超越しているのでしょうか。
「自分の生まれる前の歴史をも含む、リアルだけれど近づけない世界を、映像を知る前の娯楽としての絵画というものの力を借りて表現してみたかった」と語る作家の新たな世界に、どうぞ足を踏み入れてください。
本展では、新作ペインティング9点と、ドローイングが展示されます。

作家プロフィール

福井篤は1966年、愛知県生まれ。89年、東京芸術大学美術学部油画科卒業。現在、東京を拠点に制作活動を行っています。
小山登美夫ギャラリーでは、 2001年、奈良美智キュレーションによるグループ展に出展した後、2002年の個展、2004年の以降、2年ぶり3度目の個展となります。

作家プロフィール

福井 篤

福井篤は1966年愛知県生まれ。1989年に東京藝術大学美術学部油画科卒業。2012年より山梨県に拠点を移し、制作活動を行っています。
主な個展に、「air」(2016年、游庵、東京)、「バックパッキング評議会」(2015年、六本木ヒルズA/D ギャラリー、東京)の他、小山登美夫ギャラリーでは2001年奈良美智キュレーションによるグループ展「morning glory」に出展した後、6度の個展を行っています。その他の主なグループ展に、「高橋コレクション展 マインドフルネス!」(2013年、鹿児島県霧島アートの森[札幌芸術の森美術館、北海道 へ巡回])、「ORANGE SKY」(2011年、Richard Heller Gallery、ニューヨーク、アメリカ)、「Punkt Art 2011 David Sylvian-in cooperation with Atsushi Fukui uncommon deities」(2011年、Sorlandets Kunstmuseum、クリスチャンサン、ノールウェー)、「convolvulus 福井篤・川島秀明展」(2009年、マイケル・クー・ギャラリー、台北、台湾)、「The Masked Portrait」(2008年、Marianne Boesky Gallery、ニューヨーク、アメリカ)、「六本木クロッシング」(2004年、森美術館、東京)などがあります。作品はオルブリヒト・コレクション(ドイツ)、ジャピゴッツィコレクション(スイス/アメリカ)、高橋コレクション、国際交流基金に収蔵されています。

1966年 愛知県生まれ
1989年 東京芸術大学美術学部油画科卒業

  • Installation view from “the eyes of the midnight sun” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, Japan, 2006 © Atsushi Fukui photo by Yoshitaka Uchida / nomadic studio
  • Installation view from “the eyes of the midnight sun” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, Japan, 2006 © Atsushi Fukui photo by Yoshitaka Uchida / nomadic studio
  • Installation view from “the eyes of the midnight sun” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, Japan, 2006 © Atsushi Fukui photo by Yoshitaka Uchida / nomadic studio
  • Installation view from “the eyes of the midnight sun” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, Japan, 2006 © Atsushi Fukui photo by Yoshitaka Uchida / nomadic studio