シュシ・スライマン

「赤道の伝承」

©︎Shooshie Sulaiman

この度小山登美夫ギャラリーでは、東南アジアの重要な現代アーティストの1人であるシュシ・スライマンの個展「赤道の伝承」を開催いたします。
本展ではインスタレーション、立体、平面作品、文章など様々なアプローチでの新作を発表します。

【出展作品説明はこちらをご覧ください】
シュシ・スライマン作品説明
Labu Sayongについて

【展示風景 オンラインビューイング】

協力:Matterport by wonderstock_photo

【シュシ・スライマンついて
-自分を救い、癒すためのアート】

シュシ・スライマンは1973年マレーシア生まれ。経理の仕事を経験した後、突然の父の死など精神的に落ち込んだ「自分自身を救い、癒すために」アート制作を始め、1996年マラ技術大学にて美術学士号取得。その後マレーシア国立美術館のYoung Contemporaries Awardを受賞し、2007年にはドクメンタ12に参加、2016年パリのカディスト美術財団で個展を開催するなど国際的に活躍してきました。
また2014年からはマレーシアのアーティストプラットフォーム「MAIX」に参加。様々な領域のメンバーとのコミュニティを形成し、精力的に活動しています。

日本では2008年「エモーショナル・ドローイング」(東京国立近代美術館 / 京都国立近代美術館)、2017年「サンシャワー: 東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」(国立新美術館、森美術館、東京)、同年ヨコハマトリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」(横浜美術館他)の出展で知られ、また、2013年から続く広島県尾道市のアーティスト・イン・レジデンス「AIR Onomichi」に継続して参加。2023年には尾道市美術館で個展を開催予定です。
作品はカディスト美術財団(フランス)、シンガポール美術館、東京国立近代美術館に所蔵されています。

【シュシの作品制作について
– 古く深いものに繋がるアイデンティティ、現在進行形、コミュニケーション】

シュシにとってアートは「人生とともにある」と言います。人種間の亀裂が生じている現代のマレーシア。マレーシア人の父と中国人の母を持つシュシは、自身のアイデンティティへの苦悩と探求を深めざるをえず、祖国マレーシアにおける歴史や起源、自然や産業、社会情勢の変化とアイデンティティの関係性をテーマに作品に表してきました。

近年には、マレーシアのみでなく、国家という領域を超えてより古く深いものに繋がる人々の血縁や遺産、古代文明、宇宙、神話、自然や手仕事が、その土地の人々のアイデンティティとどうつながっているかという、より広い観点へと変化しています。

その土地特有の土や素材を使ってドローイングを描いてまた土に埋める、マレーシアの母の墓に生えるバラと、ベルサイユ宮殿のバラを交配させて育てるなど、自身の探求するテーマを既存のカテゴリーを飛び越えて作品に表す自由な発想は、観るものに新たな視点を与えるでしょう。

また、シュシの作品制作において、変化や過程を前提とする「現在進行形」のプロセス、人々との対話・コミュニケーション、過去のアーカイブは大きなポイントとなります。
2013年から続く「AIR Onomichi」では、元八百屋の廃屋の部材を一つ一つ調査、解体し、使用可能な材料は保存して、建築・彫刻作品に使用。他の廃材は絵画等のアートワークに変容させています。スタジオに籠るのではなく、様々な土地に赴き、人々と対話、アイディアを共有しコミュニケーションすることは、実践的な創造行為として深い体験を生み出します。それは彼女の制作や思考において根幹となる大切なスタンスとなっているのです。

【本展、および出展作について
-パブリックな創造活動としての、アートの保全】

古代より神秘的な力を持ち、国境を超えたつながりを作り出している赤道地帯。
シュシはその不思議なパワーに惹かれ、自身が生まれた風景としての「赤道」に対する知識を探求しつづけてきました。本展では、その古代からの赤道の力と現代の生活との精神的、抽象的なつながり、また彼女自身の精神性と、生まれ故郷とのつながりといった、ミクロとマクロの視点を作品として提示します。

本展の構成は、「パブリックな創造活動」と、「作家自身の創作」の大きく二つにわけられます。
ギャラリーの最初のスペースでは「パブリックな創造活動」として、2019年からのシュシの新しいアイディアである「アートの保全」をテーマに、マレーシアの伝統技法による手びねりの水壺「Labu Sayong」100個を一堂に展示します。

自然と対話し、作品に魂を宿すような、リラックスした瞑想的手法で作られる「Labu Sayong」と、現在唯一この技法で制作ができる68歳の女性陶芸家Mak Nah。この貴重な伝統を守るために、シュシは、MAIXのメンバーと共に女性陶芸家Mak Nahへのサポートを行い、アイディアを提供しています。制作風景の映像も制作、本展で放映し、「Labu Sayong」の売り上げは「Labu Sayong」美術館設立の資金に充てることも計画されています。

以前から古いもの、アーカイブへの興味を持ち、「昔の動向を知り、自分の手で何かしらの還元をしたい」と願っていたシュシにとって、この展示は文化と伝統を融合させる、社会的な新しいコミュニケーションの仕組みであり、アートの力でより実践的に人々を救いたいという強い思いが込められているのです。

【古代と現代の赤道のレガシー
– 作家自身の創作、「赤道の伝承」インスタレーション作品】

ギャラリーの次のスペースでは、「作家自身の創作」である、赤道にまつわる伝統的な素材、手法を用いた小さなアートワークが並び、「赤道の伝承」インスタレーション作品として展示されます。

伝統的技法で作られ、東南アジア各国の旧名が書かれ束ねられた11個のバスケット、古代より東南アジアでの重要な植物であるタピオカの成分で作られ、タコが描かれた「Macan Organic plastic bag(虎のオーガニックなビニール袋)」、放棄された木材を使った山の立体作品や、ゴムの樹液を使ったペインティング作品、地図の上に土の点が無数に描かれた地図など。

これらの作品は、シュシが交流している伝統技術を持つ作家や、友人、キュレーターとのコミュニケーションが根底ともなっており、シュシはこのインスタレーション作品を「古代と現代の赤道のレガシーが反映された、彼女自身の『神話』」であると述べています。
様々な組み合わせのオブジェが点在し、ロジカルなようでロジカルでないランダムな配置からは、予想できないエネルギーが発され、絡み合い、時を超えた壮大な物語としての「赤道の伝承」を表しているようです。

またマレーシアの伝統では、自分と周囲の事物との深いつながりを見出すために、動物や植物に語りかけるように教えられており、ものに宿るエネルギーの力が信じられています。現代忘れられがちな自然との関係を私たちに思い出させてくれるでしょう。

現横浜美術館館長の蔵屋美香は、シュシの作品を次のよう評しています。
「(シュシの作品は)『自分は一体何者なのか』という普遍的な問いによって私たちとつながっていると同時に、マレーシアで生きる、という、私たちの知らないまったく異なる経験を垣間見せてもくれるのです。」
(蔵屋美香「新しいコレクション シュシ・スライマン《国家 (Negara)》、『現代の眼』、国立近代美術館、2016年)

シュシは、日本人について次のように述べています。
「日本人はスピリチュアルとサイエンスをどう一緒に保持しているのか。日本人にそのことを聞くと決まって『いいえ』と答える。彼らは気づいていないのです。(中略)日本人はマレー人がすでに失ったバランス感を持っていると感じた。」
(シュシ・スライマンインタビュー、AIR Onomichi、2016年)

差異を知ることは自分をふりかえることであり、そこに見出す共通項こそが自らのアイデンティティを明確化するきっかけになるのかもしれません。
コロナ禍においてクローズした意識を開いてくれる、シュシの最新の世界観を堪能しに、ぜひお越し下さい。

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プレスに関するお問い合わせ先:
Tel: 03-6459-4030 (小山登美夫ギャラリー オフィス)
Email: press@tomiokoyamagallery.com
(プレス担当:岡戸麻希子)
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  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi
  • Installation view from “Lore of Equatorl” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021 ©︎Shooshie Sulaiman photo by Kenji Takahashi