特別展示「首くくり栲象」

首くくり栲象」Ryuji Miyamoto ©2013

今回、小山登美夫ギャラリーでは、「首くくり栲象」の庭劇場での姿を追う宮本隆司の写真・映像展示と、余越保子の2010年制作の「Hangman Takuzo」(46分)の上映を、8月の5日間、行います。

首くくり栲象さんは、自宅の庭を「庭劇場」と称し、月に2回程度パフォーマンスを行なっていたと聞きます。私は、今年の3月、宮本隆司さんの「首くくり栲象」写真集の出版記念展覧会を見るまで、恥ずかしながら、その存在すら知らなかったのです。なので、もちろん、庭劇場でのパフォーマンスも見ていません。でも、こんな人がいたのかという驚きと、以前衝撃を受けた羽永光利さんの写真「突っ立っている痙攣」の人物が同一人物だということを知り、彼の存在の仕方と表現を見ていただきたいと思い、今回の展示を企画しました。

写真集に書かれた宮本さんの文章の中に
「首くくり栲象は自身の行為にまつわる神秘的な想いを嫌っていた。『毎日、庭で首をくくっています』とごく普通のことをやっているように言っていた。『死に触れず、死を作品化する、あるいは生に触れず、生を作品化することはできるはずだ』とも書いていた。」(宮本隆司『首くくり栲象』写真集 BankART1929発行より)
とあります。

現代美術のアーティストである松澤宥、高松次郎、風倉匠につながるこの人間が、最後に選んだ表現の凄さを是非、見て見てください。
(小山登美夫)

【展示に関して、および上映タイムスケジュール】

11:00 – 19:00
作品展示:宮本隆司写真作品、首くくり栲象を名乗るまでの古沢守、古沢宅、古澤宅、古澤栲に関する活動資料、羽永光利写真作品

【上映スケジュール】
11:00 – 18:00
宮本隆司撮影・庭劇場ドキュメンタリー映像『Kubikukuri Takuzou』 Niwa Gekijyo Theater (2011年撮影)
43分43秒上映

インスタレーション『首くくり栲象 声とことば』
映像、構成:余越保子 (2010年撮影) インタヴュアー:右田総一郎 
協力:黒沢美香アーカイブス 
*上記は入場無料

18:00 –
余越保子「Hangman Takuzo」(2010年制作、46分)映画上映
*上記映画上映は入場料1000円(税込)となります。

【「Hangman Takuzo」について】

映画「Hangman Takuzo」は2010年の4月、広島県の瀬戸内海のとある小島に立つ廃屋で撮影されました。当時ニューヨークを拠点に活動しておりまして、撮影のために日本に一時帰国。わたしは監督と撮影を担当し、首くくり栲象、黒沢美香、川村浪子の3名が出演者として参加しました。首くくり栲象さんー英訳は「Hangman Takuzo」、よって映像のタイトルとなるーは、40年以上「首吊り」という行為を芸術活動として行い、東京の国立市にある自宅の庭にて自身のパフォーマンスを「庭劇場」として上演し続けていました。パートナーは日本のコンテンポラリーダンスのパイオニアである振付家・ダンサーの黒沢美香さんです。この2人が、「この人こそ真のアーテイストだ!」と尊敬してやまない川村浪子さんは、自然の中で裸体で歩くという行為芸術をする人です。 ライブ・パフォーマンスという儚い世界で生きてきた4名のアーティストが、永遠を約束してくれる「映像」にロマンと希望を持って島に集まり共同生活を送りながら撮影しました。しかし、首吊りイメージへの倫理的な抵抗から、アメリカでは上映が長い間叶わず映画はお蔵入りとなっていたのですが、2014年、ニューヨークから京都に活動の拠点を移したことを機に、日本ではじめてダンス作品を制作発表する機会を得ました。そのとき作った「ZERO ONE」というダンスのなかに映像を組み込むことで、「Hangman Takuzo」が初めて世に出ることができました。2015年にNYにて上演された「ZERO ONE」が、NYタイムズ紙の批評家が選ぶ 「2015年のダンス・ベストテン」に選出されたのを機に、映画「Hangman Takuzo」は国内外のアートフェスティバルから招聘され、上演を重ねています。
(余越保子)

【作家プロフィール】

首くくり栲象(くびくくりたくぞう・古沢守、古沢宅、古澤宅、古澤栲)
1947年12月26日、群馬県安中市生まれ。18歳で上京し、路上やギャラリーでのパフォーマンスやアクションを開始。 美術家の風倉匠や松澤宥、高松次郎らの薫陶を受ける。1970年頃より首吊りのパフォーマンスをはじめ、50歳をむかえた頃より20年以上にわたり、毎日のように自宅の庭である「庭劇場」で首を吊り続けてきた。余越保子監督『Hangman Takuzo』(2010)、小笠原隆夫監督『首くくり栲象・方法序説』(2011)、堀江実監督『首くくり栲象の庭』(2016)、木村文洋監督『息衝く』(2017)、山下敦弘監督『ハード・コア』(2018)などの映画に出演。主な舞台は、大野一雄フェスティバル2004をはじめとした黒沢美香との共演や、安藤朋子と共演したARICA「蝶の夢」(2009、演出/藤田康城)など。2018年3月31日午後、肺がんのため70歳で永眠。

宮本隆司(みやもとりゅうじ)
1947年、東京生まれ。多摩美術大学デザイン科卒業後、建築雑誌編集部員を経て写真家として独立。第14回木村伊兵衛写真賞(1989年)、第6回 ヴェネチア・ビエンナーレ建築展金獅子賞(1996年)、第55回芸術選奨文部科学大臣賞受賞(2005年)。主な写真集に、「建築の黙示録」(平凡社 / 1988年)、「新・建築の黙示録」(平凡社 / 2003年)、「九龍城砦」(ペヨトル工房 / 1988年、平凡社 / 1997年、彩流社 / 2017年)、「Angkor」(トレヴィル / 1994年)、「KOBE 1995 After the Earthquake」(建築・都市ワークショップ / 1995年)、 「RYUJI MIYAMOTO」(Steidl / 1999年)、「CARDBOARD HOUSES」 (BEARLIN / 2003年)、など多数。 2019年東京都写真美術館で個展「いまだ見えざるところ」を開催。

余越保子(よこしやすこ)
広島県出身、京都在住。振付・演出家・映像作家。1996年より2013年までニューヨークをベースに作品を発表しその後拠点を京都に移す。2003年、2006年のベッシー賞最高作品賞受賞。 New York Live Artsの初代レジデントコミッションアーティスト(2011年 – 2013年)。文学、歴史、ポップカルチャーを題材にした作品の他、「余越保子 × 高校生ダンスプロジェクト」、映画の自主制作、1990年森鴎外記念自分史文学賞受賞など、創作活動は多岐にわたる。ホイットニー美術館、グッゲンハイム美術館、マサチューセッツ現代美術館や、国内外の劇場、フェスティバルの招聘上演を重ねる。ジョン・サイモン・グッゲンハイム・メモリアル・ フェロー、ファンデーション・フォー・コンテンポラリー・アート・フェロー、ニューヨーク市芸術家助成、クリエィティブ・キャピタル助成を受賞。今年10月に開催される城崎国際アートセンター主催公演では、新作「shuffleyamamba」を出石永楽館にて発表する。

写真集
『首くくり栲象』
本体価格 2,376円(税込)
体  裁 B5版108p ハードカバー
発  行 2018年12月7日初版発行
著  者 宮本隆司
テキスト 長井和博
発  行 BankART1929