杉戸 洋

「frontispiece  and  end leaf  チリと見返し」

©Hiroshi Sugito 写真:千葉小夜子 photo by Sayoko Chiba

近年、国内の美術館での個展を続けて開催し、益々活躍の場を広げている杉戸洋。2015年には宮城県美術館「天上の下地 prime and foundation」と静岡のベルナール・ビュフェ美術館にて「frame and refrain」、2016年には豊田市美術館において「こっぱとあまつぶ」、そして今年2017年7月25日からは、東京都美術館にて個展「とんぼ と のりしろ」を行うこととなりました。杉戸はいまや、今日の日本の美術を語る上で欠かすことのできない重要な作家の一人であると言えるでしょう。
小山登美夫ギャラリーでは6年ぶりの個展となる本展、杉戸洋「frontispiece  and  end leaf チリと見返し」は、東京都美術館での個展「とんぼ と のりしろ」と同時期に、また違う視点で空間をとらえ、壁面構成を活かした展示を行います。

杉戸洋は、4歳から14歳までをニューヨークで過ごし、帰国後は日本画の繊細な線や美しい色彩に魅せられ、愛知県立芸術大学にて日本画を学びました。 90年代より現代美術のフィールドで絵画を中心に創作活動をはじめ、抽象と具象のあいだを行き来しながら、点や線、三角や台形、楕円といった幾何学的形態や、みずみずしく鮮やかな色による幻想的な画面のリズムを生み出し、叙述性をともないながら様々なモチーフが互いに影響し変容し合う、伸縮自在な杉戸独自の世界観をつくりあげてきました。

また杉戸の作品からは、質感の巧みな表現によって触感、明暗、冷暖の身体的感覚すら感じ取れ、観る者の心に入り空間全体を優しく包み込みます。そのように彼の絵画がキャンバスの枠の外までおよぼす影響を、豊田市美術館の学芸員能勢陽子氏は次のように語ります。
「みているのは平面の絵画のはずなのに、誰もがその場を満たす空気感を味わうだろう。私たちがいる空間は、本当は何もないのではなく、大気や光の影響を受けて原子が盛んに動き回っている。杉戸の絵画は、ちょうど水の中にいる魚が水に濡れていることに気づくように、外界に対する認識の変化をもたらす。」
(能勢陽子「こっぱの絵、あまつぶの空間」杉戸洋「こっぱとあまつぶ」展覧会カタログ、豊田市美術館、2016年)

さらに近年は建築空間への関心により「展覧会全体が空間をデッサンするようにつくられている」(和田浩一「空間に合わせて展示をつくること、絵を描くことは、生きている証。」美術手帖2015年7月号)というように、それぞれの作品は独立して存在しつつも、隣り合う絵画や置かれる空間との相互作用や、様々な素材、たとえばレモンの形の巨大なバルーンや、薄いピンクやブルーのカーペット、発泡スチロールなどを用いて空間構成をほどこし、時には来場者の導線を通常の逆にして新たな視覚的効果を生み出すことで、その展覧会でしか体験することのできない多層的、有機的な世界観を作り出しています。
特に杉戸にとって、新たな視点や想像を超えた可能性を生み出す大きなきっかけとなっているのが、建築家・青木淳との出会い、コラボレーションといえるでしょう。

青木淳は、杉戸の展覧会に関して次のように語ります。
「その場からはじまって、そこに置かれるもの、そこに架けられる絵、そこに吊るされるもの、そこから見える外の景色、そこまで来るとき見えたものや気分、そこから帰るときに見えるもの、実際には行ったことはないしかしある特定の場所、ある音楽を聴いたときの気持ち、もろもろの記憶、エピソード、そういうモノやコトが、つながっていきます。そしてそのたびごとにますます、この現実の世界が、その現実のままなのに、すうっと空気が気持ち良く通う、別の顔をもった世界に広がり、変容していきます。そのいっぽうで、もちろん、絵のなかの世界があります。絵は、絵というものとして、外に向かって広がる世界のひとつの構成要素となるだけでなく、外に向かうときの同じような空気をもって、その画面の内側に向かって、広がっていくものです。こうしていつのまにか、絵の画面を境に、こちら側とむこう側がシームレスにつながる。 これがつまり、絵の外の世界がすでに絵である、ということであり、杉戸さんの展覧会とは、もともと杉戸さん自身のなかだけで生起しているこうした感覚変容の連続体を、私たちが私たちなりに追体験することなのです。」
(青木淳「どこからが絵なのだろう、どこまでが絵なのだろう。」杉戸洋「こっぱとあまつぶ」展覧会カタログ、豊田市美術館、2016年)

鑑賞者は杉戸の作品、世界観から、世界は一つの方向や視点からではなく、様々な角度から構築され変化し連鎖し続ける多面的なものであることを改めて気づかされます。 また同時に、純粋に作品を見るということの楽しさ、喜び、そして普段の意識から解放され、新たな想像力を生み出す自由さも味わうことができるのです。 杉戸は、自らが体験しとらえた現象世界の知覚を作品にあらわそうと真摯に探求し続けており、これからも、常に変化し続ける世界の流動性を描く為に、既成概念を超えた自由な杉戸の表現の考察、実験はさらに続けられるでしょう。
小山登美夫ギャラリーでは6年ぶり7度目となる本展、六本木のスペースの中で、杉戸はどのような表現をするのでしょうか。作家の新たな挑戦をぜひご高覧ください。

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Tel: 03-6459-4030 (小山登美夫ギャラリー オフィス)
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作家プロフィール

杉戸 洋

杉戸 洋は1970年愛知県生まれ。1992年愛知県立芸術大学美術学部日本画科卒業。現在、東京藝術大学美術学部絵画科油画准教授。 1990年代の活動初期から国内外での活躍が目覚ましく、主な個展として、「FOCUS」(フォートワース現代美術館、アメリカ、2006年)、「天上の下地 prime and foundation」(宮城県美術館、仙台、2015年)、「frame and refrain」(ベルナール・ビュフェ美術館、静岡、2015年)、「こっぱとあまつぶ」 (豊田市美術館、愛知、2016年)、「杉戸洋 とんぼ と のりしろ」(東京都美術館、東京、2017年)の他、ロサンゼルスのMarc Foxx Galleryでも8度の個展を開催しています。
主なグループ展としては、「ウィンター・ガーデン:日本現代美術におけるマイクロポップ的想像力の展開(キュレーション:松井みどり)」(原美術館、東京、2009年、以後ケルン日本文化会館、ドイツ、2010年 / トロント日本文化センター、カナダ、2010年 / Galeri’a Arnold Belkin: Museo Universitario del Chopo、メキシコシティ、メキシコ、2010年 へ巡回)「絵画の庭-ゼロ年代日本の地平から」(国立国際美術館、大阪、2010年)「ロジカル・エモーション― 日本現代美術展」(ハウス・コントルクティヴ美術館、チューリッヒ、2014年、以後クラコフ現代美術館、ポーランド、2015年/ ザクセンアンハルト州立美術館、ドイツ、2015年 へ巡回]など多数の展覧会に参加しており、現在静岡のヴァンジ彫刻庭園美術館で開催中の「開館15周年記念展『生命の樹』」でも作品を出展しています。