染谷悠子の作品は、和紙のやわらかな風合いを生かしながら着彩し、重ねていくことによって作り上げられます。また、様々な筆致—鉛筆の線、水彩絵の具や墨を用いて筆で描かれる線、紙から引き出す繊維が形成する線など—を巧みに操る独特の手法によって、ロマンティックで軽やかな透明感を生み出します。蜘蛛の巣に絡めとられる蝶や、優しく彩られた花々に埋もれるようにひっそりと横たわる動物など、命の儚さが醸しだす微かな不穏さも作品の魅力を高めています。染谷は次のように語ります。「生きているものはそんなに綺麗ではないと思った瞬間がありました。命がそこにはない、何も入っていない、生々しさが抜けたものがすごく綺麗だと感じました。かと思えば、毛は生えている時の方が綺麗だなと感じ、抜け落ちた途端に生々しく思います。」美しく華奢にきらめく花や蝶、蜘蛛の巣、鳥たちは、虚無的ともとれる、染谷の「生」に対する感覚や矛盾を映し出しながら、鑑賞者を誘います。
日本では4年ぶりの個展となる本展では、昨年ヴァンジ彫刻庭園美術館にて好評を博した展覧会、「生きとし生けるもの」に出展した作品に、国内未発表の作品を加えた十数点を展示します。絵画を通して、「生あるもの」が内包して逃れ得ることのない「命のおわり」を見つめ続ける染谷の世界を、会場でご堪能ください。