<作品紹介>
染谷悠子は、パネルに和紙を張り、そのやわらかな風合いを生かしながら、繊細な筆致で架空の世界を描きます。登場するモチーフの多くは花や鳥、樹木、動物ですが、その造形は花びらや羽根の1枚1枚まで非常に細かく描き込まれています。
「言葉を綴るように、鉛筆を動かしていく」と作家が語るように、まず鉛筆の淡い輪郭線が画面を作り始めます。細密画のように綿密な描写にも関わらず、絵全体の印象が非常に軽やかなのは、存分にとられた余白とのバランスと、リトインクを使った独特の手法—水彩絵具だけが塗り重ねられるのではなく、版画用のインクも用いて瞬時に彩色していく—による色彩が、透明感に溢れているからでしょう。
<展覧会について>
作家の頭の中には、常にひとつの物語があるようです。2005年の作品『花小鳥』では、6点のタブローが1つの作品として並べられ、幅5メートルを超える画面に、花のついた幹、小鳥達やクモの巣、鳳凰のような鳥や、不思議な動物が、まるで絵巻物のように配されています。
今回展示される大作のペインティングでも、大きく翼を広げた鳥が登場します。色とりどりの羽根は、植物の細胞のようでもあり、或は海底を彩る珊瑚のようにも、飛び散るしぶきの軌跡のようにも見えます。いっぱいに羽根を広げて降臨するその姿は、まるで背後に広がる空そのものを司る神の姿のような厳かさをたたえています。