【作品紹介】
桑久保徹は自分の中に架空の画家を見いだすという演劇的なアプローチで制作活動をスタートしました。印象派の画家たちが行ったように海辺にイーゼルを立てて絵を描いたり、描いた絵を背中にくくりつけて「絵を売り歩く放浪画家」としてパフォーマンスしたりと、彼がイメージするいわゆる職業画家をいわば演じてみることが、最初の制作のきっかけになりました。
画家に扮した彼が好んで描くようになったのは、多くが海のモチーフです。オイルを混ぜず、油絵の具だけを分厚く盛り上げて描いていくタッチは、現代美術というよりも明らかにゴッホの作品を想起させます。現代においてはもはや古典になりつつある印象派の技法と、桑久保自身の中にある現在の心象風景が重なり合って作品を作り上げています。海辺に穴を掘る人々など、架空の物語を背負った初期の作品から、海面を漂う花が浪漫的に描かれた作品、更に近年では、作家自身の頭の中にあるものが海岸いっぱいに並んでいるかのような、モチーフそのもののフォルムや色彩により焦点の当てられたシリーズが登場しています。
【展覧会について】
「最近、何を見ても絵の中のモチーフのように見える」という作家の、大きな海岸のペインティングと小さな風景画や静物画を展示いたします。
展覧会タイトル「World Citizens with the White Boxes」は、彼がヨーロッパに滞在中、エスカレーターを上ってくる女性がまるで彫像のように見えたことから、全ての人が白い箱の台座を持った彫刻だとしたら、という小さな幻想から来ています。20世紀の日本人洋画家のように渡欧を経た作家の、今の視点をどうぞご高覧ください。