涌井智仁 展「nonno」

HAL/MESSAGE 2016 mixed media 185 × 85 × 50 cm ©Tomohito Wakui photo by shota kuriki

今回、涌井智仁の映像の作品を、Chim↑Pomの協力のもと展示します。高円寺の洞窟のような場所で体験した過去に見たような、でも未来に起きるかもしれないざらざらとした感覚。画面に繰り広げられるイメージは限りなく思考を刺激します。若手アーティストの真摯な表現への新たな試みを是非、お楽しみください。(小山登美夫)

人類は様々な否定の上に歴史を編み上げてきました。生物の自然淘汰と絶滅、時代に合わず失われたテクノロジー。歴史は常に暫定的で偶然的な否定によって成立させられています。しかし、アートは新しい世界を生み出す技術で、アーティストとはそれを啓く者のことを指します。この歴史に留まり、安心することは許されません。
今回の個展で私が試みたいのは、これまでの否定を否定し、あり得た/あり得るべき世界に関してペンを走らせることです。それは今までの人類を絶滅させ、新しい人類を懐胎するための最初の一歩になるはずです。
私は想像します。決して想像ができないものを。(涌井智仁)

今年5月、Chim↑PomのギャラリーGarter(通称キタコレビル)にて開催された涌井智仁の個展「Long,Long,Long」。真っ暗な空間に光ケーブルやモニタ、LEDが点滅し、腐葉土の腐臭が鼻をつく。サン・ラのインタビューやノイズ音、猿が話すハナモゲラ語が飛び交う中、それぞれの作品から光の線が天井へと伸びて、穴をつたって屋根の上へと続いていた。戦前のバラックを改造したまるで九龍城のような建物の屋上にはアンテナが立ち、会場から集められたデータが北極星へと発信されていた。「人類がいなくなった後の表現」と題されたトークには多くの若者を集めつつも、謎めいた話に「理解出来ない」との声を多く聞いた。無理もない。ビジュアルの目新しさやデジタルのスキル、ニューテクノロジー、SNSなど時事的なスペックばかりを謳歌する昨今のポストインターネット・デジタルアートへの呪術的・普遍的な批評として、涌井はひとり「データとは何か」というハードコアと向き合い、電波となって宇宙を飛び交うデータに想いを馳せて、距離的時間的無限を旅していたのだから。きっと「2001年宇宙の旅」が封切られた1968年の真っ暗な映画館にも、あんな静謐な空気が漂っていたに違いないと思う。8月。小山登美夫さんからの驚きの提案ー彼の個展をヒカリエでーによって、涌井智仁の第二弾。高円寺キタコレから考えたら、ドブ川からホテルのプールくらいの大展開。「Long,Long,Long」で初めて高円寺を訪れたという小山さんと涌井の未知との遭遇は、きっと近年乖離してきた印象の強い若手の問題意識と日本のギャラリーシーンに新たな関係を迫るはず。更に秋には上妻世海との共同キュレーション展が行われるという。モノからデータへとシフトするパラダイムのまさに初期、2016年の涌井の動きが僕らの未来を刺激する。(卯城竜太 Chim↑Pom)

涌井智仁は1990年、新潟生まれ。現在は東京を拠点に制作活動を行っています。映像、ジャンクパーツやオーディオなどをプログラミングによって結合させ、テクノロジーの原始的な可能性を表現する作品を制作しています。データを根源的に捉え直し、人類とその歴史における次の展開を美術によって模索しています。主な個展に「蒼い優しさに抱かれて」(ナオナカムラ、東京、2012年)、「Long,Long,Long」(Garter、東京、2016年)、主なグループ展に「限界とかねーし Limiter cutしてるし展」(HIGURE 17-15 cas、東京、2013年)、「天才ハイスクール」(山本現代、東京、2013年)、「旅公演(どりふと)」(東京都美術館、2015年)、「Genbutsu Over Dose」(キタコレビル、東京、2015年)などがあります。