作品紹介
福井篤の作品に現れる風景は常に細緻な線で描かれ、鮮明な色使いと冷たい青により紡ぎ上げられます。あるときはモチーフの表情が細かく描写され、あるときはアウトラインのみのイメージと色の変化により構成され、鑑賞者とはある程度の距離が保たれるのです。キノコや木などの植物、森の中の少女、あるいは部屋に立つ鹿などのモチーフが非現実に配置された奇妙な空間は、平和で静謐な、幻想の世界です。また、福井が少年時代に魅了されていた欧米のSFとコミックスから受けられた影響が、彼の作品の筆触やテーマにつながると考えられます。
2000年代の福井が描くテーマは身近な生活を描写するのが特徴です。2002年小山登美夫ギャラリーで行った個展「bedroom patintings」で展示された1点『yellow face』では、床で横になる時に目に映る緑のTシャツを着た自分の胴体と天井の電球は、山並みと太陽のような風景に変貌し、都会の狭小な暮らしのスペースを、シンプルな構図と輪郭で軽妙に隠喩しました。その後、福井は自らの独創的な物語に基づき、より隠喩的かつ哲学的な展開を見せます。2006年の個展「the eyes of the midnight sun」では、福井が想像する地球が絵画によって語られました。2009年の個展「I see in You」では、暗い青色の場面が多くなり、内にこもっている感情や自然そのものに宿った不安が伝わるようです。
福井作品にある内面的な意味について、美術史家の加藤磨珠枝氏は次のように述べています。
「『自分を含めた世界の全てはイリュージョン(幻影)かもしれないが、まさにそれを懐疑する自我の視覚が存在する』ことの表明である。それは言葉によっては共有できない、視覚体験として立ち現れてくる。彼の描くイメージは、単なる幻想ではなく、他者あるいは外界を介した画家の視線を投影する媒体なのだ。」
(福井篤カタログ『last night I dreamt somebody stole my mushroom、2011年、p.128より』)
2013年、福井は再び周りの生活を題材にして新作を発表します。彼の新生活の描写でありながら、彼の幻想的な視覚と我々が見慣れている福井のイメージが融合され、あたかも福井が歩いてきた絵画の道の様々な視点を鑑賞者に伝えようとしているかのようです。
展覧会について
本展では、福井篤の新作を主に展示いたします。雪の風景を描いた作品や斧を始め、新たなモチーフが新作の中で登場します。2012年の夏に、福井は都会を離れ、山梨県の標高1000mの場所に引っ越しました。暑さと寒さや気候と季節の劇的な変化を経験したといいます。周りの風景の変化のみならず、都会の生活と異なり、ストーブ用の薪集めや斧を使うことなどの日々の仕事が、作品にも少しずつ新たな影響を起こしたかもしれないと福井は語ります。
また、本展のタイトルである「Summer into Winter」は、ベン・ワット(Ben Watt)のアルバムタイトルから引用したものです。このタイトルは、福井のタイムラインにおける季節の移り変わりの描写であるとともに、熱帯に位置する当ギャラリースペースで間もなく発生する、作品による視覚的な季節の変化をも示します。
作家プロフィール
福井篤は1966年、愛知県生まれ。1989年に東京芸術大学美術学部油画科卒業。現在、山梨県を拠点に制作活動を行っています。
福井は2001年、奈良美智キュレーションによるグループ展「morning glory」に出展した後、小山登美夫ギャラリーでの個展は、2002年の「bedroom paintings」、2004年の「teenage ghosts (and other scary stories)」、2006年の「the eyes of the midnight sun」、2009年の「I see in You」、2011年の「Uncommon Deities-Prints」があります。その他の主なグループ展に、「ORANGE SKY」(2011年、Richard Heller Gallery、ニューヨーク、アメリカ)、「Punkt Art 2011 David Sylvian-in cooperation with Atsushi Fukui uncommon deities」(2011年、Sorlandets Kunstmuseum、クリスチャンサン、ノールウェー)、「convolvulus 福井篤・川島秀明展」(2009年、マイケル・クー・ギャラリー、台北、台湾)、「The Masked Portrait」(2008年、Marianne Boesky Gallery、ニューヨーク、アメリカ)、「六本木クロッシング」(2004年、森美術館、東京)などがあります。作品は高橋コレクション(日本)、国際交流基金(日本)、オルブリヒト・コレクション(ドイツ)、ジャピゴッツィコレクション(スイス/アメリカ)に収蔵されています。