ゲルマン・シュテークマイヤーは、四次元的広がりを持つドローイングや、単純な重なりへと還元された色彩が絶妙に構成されたペインティングを制作しています。彼のドローイング制作には長い年月が費やされることが多く、鉛筆や木炭などの線が消された跡に、構造的に張り巡らされたストロークの短い線が何重にも継ぎ足されることによって、緊張感を湛えた静謐な空間が生み出されるのです。時には20年もの歳月を経て連なっていく線は、歴史の断片を創造しているかのようにも感じられるでしょう。ヴィンタートゥール美術館館長のコンラット・ビテリは、シュテークマイヤーのドローイングを次のように評しています。「美術史における全ての関連や伝統を超えて、シュテークマイヤーのドローイングはまず、そして何よりも『見るためのもの』である。モダニズムの擁護者たちとは違って、彼は視覚的な芸術理論の類い、ましてや社会的ユートピアには興味を示さなかった。90年代以降、彼は明らかに意識的に様々な芸術における伝統やフォーマルな可能性を駆使してきたのである。」(「GERMAN STEGMAIER」Galerie ZINK/Verlag für Moderne Kunstカタログ、2013)
本展では、ドローイング作品24点を展示致します。自身の制作についてシュテークマイヤーは次のように語ります。「作品となるには何も足したり、なくしたり、変えたりできない状態に達さなければならない。可能な限り最善の意味において、私が想像した以上に作品が変化し、自立するようになるということ。機械のように個々の要素から構成され、ある時点からそれ自身で動き、私がもはや必要とされなくなった状態が完成なのである。」作家の内的思考の軌跡でもあり、制作過程における変容が浮かび上がる無数の線の重なりは、費やされた時の密度を纏い鑑賞者の眼前に現れます。日本での初個展となるシュテークマイヤーの世界をぜひご堪能ください。
ゲルマン・シュテークマイヤーは1959年ドイツのミュールドルフ生まれ。ミュンヘンのルートヴィヒ・マクシミリアン大学にて数学と科学理論を学んだ後、ほどなくして芸術へと転向。ミュンヘン美術院にてアートを学んだ後、オランダ国立芸術アカデミーにも在籍しました。マインツ州立博物館、ノイエ・ピナコテーク・ミュンヘンなどドイツ国内をはじめとして、これまで30回を超える個展を開催しています。シュテークマイヤーはアムステルダム、ニューヨーク、ローマにて数年を過ごした後、ドイツに帰国。現在は、ミュンヘンに拠点を置き、制作活動を行なっています。作品はアムステルダム市立美術館、チューリッヒ美術館、ブッシュ・ライジンガー美術館、国立版画素描館(ベルリン美術館)、その他の多くの美術館や個人コレクションに収蔵されています。