大野智史は、原生林をバックにスピーカーや人物像、プリズムや螺旋のイメージを描いてきました。現在、富士山の袂にアトリエを構える大野にとって、原生林は生命が生まれ、終わる場所であり、また鮮烈な色彩のプリズムは、美しさと華やかさを秘めた魅力あるものの象徴で、そこに人たちは引き付けられていきます。2013年、大野はダイムラー・ファウンデーションのグラントで、ベルリンに滞在する機会を得ます。そこで彼は、自身も影響を受けたと語るドイツの表現主義的な作品を浴びるように見ながら、一方で、日本とヨーロッパとの気候風土の違い、そこから生まれる絵画的な美意識の違いについて気づき、考察することになります。その体験の一端が、2014年の原美術館での「『アート・スコープ2012-2014』─旅の後もしくは痕」での出品作に現れてきました。
本展覧会は、それに続くシリーズで、プリズムと亜熱帯の植物をモチーフにした絵画を発表します。大野の制作の背景には、東西の美術史と、絵画的な表現についての分析があります。そして、デジタル時代を象徴するような、フラットな色面構成による表現と、描写的な表現を自由に行き来し、時に1つの画面でそれらを拮抗させ、感覚を多層化させながら、絵画の可能性を探求します。
大野智史は1980年岐阜県生まれ。2004年東京造形大学卒業。現在山梨県富士吉田市を拠点に、制作活動を行っています。小山登美夫ギャラリーでの個展は4度目、2007年にはホノルル現代美術館で個展「Prism Violet」を行いました。主なグループ展に、「越後妻有アートトリエンナーレ2009」(福武ハウス 2009 / 旧名ヶ山小学校、新潟)、「VOCA展2010」(上野の森美術館、東京)、「リアル・ジャパネスク」(国立国際美術館、大阪、12年)「『アート・スコープ2012-2014』─旅の後もしくは痕」(原美術館、東京、14年)、「絵画の在りか」(東京オペラシティ アートギャラリー、14年)などがあります。作品は原美術館、トヨタアートコレクション、国立国際美術館ほか、国内外の個人コレクターにも収蔵されています。
Exhibition information / Movie
http://www.hikarie8.com/artgallery/2015/08/satoshiohno.shtml
今回の展覧会についてのアーティストのコメント
『ビューティフルドリーミング。』
ケミカル原生林。
愛と誕生と汚染と共にファニーに生きること。
2年前から近所の富士山の山麓に「この森のキノコ類、山菜類から基準値を超える放射線量が検出されました。」
という看板が立っている。
2011年のあの日以来、日本は深い森も都市も『ケミカル原生林』となった。
安全か危険かということではない。
僕たちはみんな、これからも現代の豊かな恩恵を受けながらこの地で生きていくということ。それは被害者であり加担者であり続けるということ。
都市の雰囲気はあの日の出来事を忘れようと過剰ににぎやかに見える。いや、いつもこんな感じだ。いつも、悪夢を忘れようと必死になって半狂乱になっている。
「直視できないよね。」「美しい夢のほうがよっぽどいいよね。」
そうやってみんな気づかないフリをしている。
だがそれでも、汚染された自分と愛するものの命を繋いで生きる喜びの意味を、このハレーションした闇のゲンセイリンの中から見いだしていくのだろう。
大野智史