【作品紹介】
60年半ばから、タトルは日常の中のありふれた素材を用いた彫刻作品を発表しています。紙や木片、プラスティック、ワイヤー、金属片など、それまでの美術史上では決して主役になり得なかった取るに足らないものが、タトルの作品においては美しい色彩の、緊張感を放つオブジェへと生まれ変わります。巨大さや素材の重厚さが空間を圧倒するような同時代の作品に半ば背を向けるようにして、タトルは軽妙な、時に即興的でさえある作品を次々に制作しました。初期の立体のフォルムは、自身のドローイングに描かれたシンプルでありながら根源的な形が、そのままキャンヴァスや板、針金などによって3次元へ移行したかのようです。8cmほどに切り取られたロープ片を、壁にピンでとめただけの作品もあります。折しも70年代初頭、日本においても「もの派」と呼ばれる潮流が、同様の素材を積極的に、あるがままに見せようと模索し始めていた事は、興味深い事実かもしれません。
【展覧会について】
時を経るごとにタトルの素材は多様化し、形も複雑になっていきますが、日常で我々が目にする素材が、突然あらゆる境界を凌駕するパワーを帯び始める表現に変わりはありません。ストイックさと豊穣さが同居する作品からは、常に先鋭的であることへの探求心が見て取れます。構図とフレームの問題、線と色面、神秘性や精神性と開放された素材そのものを分ちがたく結びつけること。20世紀以降の芸術が宿命的に背負う課題を、彼は独自のスタイルで今なお探り続けています。床に近い高さで小さな作品を並べたり、全くフォルムの異なる作品をランダムに展示したり、もしくは壁面の中央ではなくあえてコーナーを活用したりと、そのインスタレーションの方法も多岐にわたります。鑑賞者の目線は自在に操られ、空間そのものが日常からある種の神聖な場所、作家の言葉を借りるならば「模倣から来るのではなく、真実に根ざした芸術」に出会う場所へと変貌してゆきます。