この度小山登美夫ギャラリー六本木では、ソピアップ・ピッチの個展「すべては癒しの種になる」を開催いたします。
【展示風景 オンラインビューイング】
協力:Matterport by wonderstock_photo
ソピアップ・ピッチは、カンボジアを代表する現代アーティスト。カンボジアの文化、歴史、自然、手仕事、素材への畏敬の念や情熱を、洗練された現代的な構造で作品に表してきました。
ピッチ自身の経歴、環境とも共鳴した、ゆるやかな時間と癒しを与える作品は国際的にも高い評価を受けており、メトロポリタン美術館、グッゲンハイム美術館、ポンピドゥー・センター、M+、東京都現代美術館、森美術館など、世界中の主要な美術館に所蔵されています。
主な展覧会として、2012年ドクメンタ13、2013年NYのメトロポリタン美術館での個展、2017年ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「VIVA ARTE VIVA」、2023年光州ビエンナーレの他、日本では2017年森美術館での「サンシャワー:東南アジアの現代美術展」に出展、カタログの表紙を飾り、今年2023年同館での「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」にも参加。また2022年竣工の虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワーにもパブリックアートとして飾られています。
【本展および新作に関して
ー素材への新たなアプローチ、自然と癒しと、ゆったりとした時間が編み込まれる】
ピッチの作品制作において、竹、ラタン、蜜蝋など地域に根ざした素材と向き合うこと、そして新たなアイディアを練り、ものを割いたり、ワイヤーで結んで編んだりという動作を繰り返すなど、時間をかけた丁寧なプロセスを経ることはとても重要な要素です。
いままでの素材は、主に地元で購入していましたが、今回は初めての試みとして、ピッチの自宅兼スタジオの庭で育った竹を「Nocturne(夜想曲)」や「Dissolving Stars(溶解していく星々)」などのレリーフ作品に使用しています。
8、9年前に植えられ、自宅とスタジオの自然な囲いとして育った竹は、量も増え、成熟し、ピッチは次第に自分の彫刻に使ってみたいと思うようになります。しかし今まで使っていた竹よりも節に厚みがあり、節と節の間隔も近く、加工するのに時間がかかる。
そのため、いままでと異なる方法を想像し、自身の彫刻に対しての考えを変えていく必要がありました。
その特殊な性質を活かすため、今まで削り落としていた節をそのまま存在させ、ピッチ曰く「節だという認識と声を与える」。
そして素材を最小限に、竹に黒いインクをつけて象徴性を強め、節の部分はインクを削り、内側の色とテクスチャーをあらわします。そんなシンプルな動作により、夜空を思い浮かべるような空間と奥行きの感覚を作品に与えました。そこには、想像していなかったような音楽に近いような感情的な共振が生まれています。
「Ravine(峡谷)」は、町のリサイクルショップで購入したアルミ、錫製のポット、なべ、やかん、炊飯器、バケツなどを、ハンマーで平らにし、カットし、時には鋳造してさまざまな形にしたものを素材としています。
アルミの食器は安価でいまだにカンボジアではよく使われており、これらの器はピッチに子供の頃のたくさんの記憶をもたらすといいます。
「Bauhinia Purpurea(ムラサキソシンカ)」は、ピッチの継続する自然へのオマージュです。
熱帯の植物ムラサキソシンカは、花と葉は料理の酸味として、葉と樹皮は医療に使用されますが、つい見落とされがちな種子のさやは、実は優雅なねじりのある形を持ちます。ピッチはそのさやに着目してモチーフとし、ラタンを編み込んで高さ3mほどの大きく透明感ある作品に昇華しました。
床置きの作品「Refuge(安らぎの地)」の素材の熱帯樹レインツリーは、たくさんの日陰を与えてくれている存在ですが、独特な波打つ木目の板がジグソーでカットされ普段知られる姿とは別のもののように現れています。そこにつけられた、南カンボジアのキリロム山にあるピッチの農場で育った竹の幹は、密集した茂みの中で光を探すため信じられないほどまがりくねっており、それぞれの不思議な存在性が呼応しあっています。
これらのピッチ作品は、自然の果てしなく多彩で美しい形が、ピッチに与えてくれるインスピレーションを表現しており、そしてその予測不可能性と順応性は自然がもつ普遍性といえるでしょう。長い間見逃されてきた小さなものでさえ、もっと先の、よりすぐれた探求のための手段になりうることを私たちに示してくれます。
森美術館館長の片岡真実は、次のように評しています。
「(ピッチ作品の本質は)むしろ素材そのものが語る歴史や記憶、あるいはその存在そのものにあるように思われる。」
(片岡真実「木石の無心ーソピアップ・ピッチのポリティクス 」、『ソピアップ・ピッチ RECLAIM – 再生』展覧会カタログ、小山登美夫ギャラリー、2019年)
ピッチの作品は、見る人の時間の流れをも緩やかにしていきます。私たちは足をとめてじっと見つめているうちに心が解き放たれていくことに気付かされるでしょう。この貴重な機会にぜひご覧ください。
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(プレス担当:岡戸麻希子)
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