<作品紹介>
長井朋子の作品には、森や部屋などの背景に、熊や猫、馬などのたくさんの動物たち、幼い少女や架空の生きもの、色とりどりの木やキノコなどが、まるで劇場のように配置されています。これは自身でも描ききれないような無数のイメージに満ちた、ひとつの壮大な空想世界の出来事の、一つ一つの場面なのだと長井は話します。様々なモチーフが絶妙のバランスで散りばめられた個々の作品はどれも、ある種の充足感をたたえ、世界が凝縮したような不思議な感覚、そして独特の空間性をもっています。
絵の上は偶然の集まりであると話す長井は、下描きはせず、描く対象に応じてそれにふさわしい画材を選びます。油彩、アクリル絵具、水彩、色鉛筆、パステルに加えてぬいぐるみなどの立体作品や、様々な素材を使用したインスタレーションも手がけます。それによるマチエールや素材の違い、描き込みの程度の違いなどは、個々の要素としてリズムとなり、ひとつの音楽を生んでいるように思えます。彼女の画面には、明確な物語があるわけではありませんが、この音楽を感じる事によって、わたしたちはいつの間にか彼女の作品世界の中に入り込んでいることに気付くのです。それはそのナラティブが作家の内的、私的発想にとどまらない、開かれ、文化を超えたある種の普遍的な感受性の発露であるからなのかもしれません。
<展覧会について>
「日常の中で、いつもの風景が一瞬ドラマチックに輝いて見える瞬間がごくごくたまにあると思います。そのドラマチックの瞬間は自分自身の気分とか、時間帯や天候や季節や様々な要素が運命的にギュッと揃って起きる出来事です。例えば、散歩中に風が吹いて落ち葉が一斉に降ってきて黄色に囲まれた瞬間などです。今回の展示はそんな貴重なドラマチックを絵の中に閉じ込めて、そこへ自分なりの理想や願いを加えて、真空パックみたいにした展覧会になればいいなと思って作品を作ってきました。」
今回の展覧会に関して、長井は以上のように述べました。このような奇跡的な瞬間を閉じ込めた新作のペインティングを約10点、また同じく新作のドローイングを約15点展示いたします。長井はその空間が作品世界を表すかのようなインスタレーションを行いますが、今回の個展でも2つある展示スペースのうちの一方にて展開する予定です。
また、長井は昨年の日本で起きた地震と津波の被災地の一つである、宮城県七ヶ浜にある保育園にてプールに絵を描くプロジェクトに携わっています。この保育園はシンガポール赤十字社による全額サポートにて現在建設されているもので、2011年の七ヶ浜町遠山保育所改築設計プロポーザルコンペにおいて、日本人の若手建築家、髙橋一平が最優秀賞を獲得したものです(竣工予定は2013年3月)。本展覧会がシンガポールで行われることもあり、このプロジェクトに関わる模型やドローイング、長井がプールのために描きおろした下絵2点なども展示いたします。