<作品紹介>
加藤の絵画からは、私たちの住む世界の美しさ、残酷さ、そこに常につきまとう寂しさと暖かさが、渾然一体となって感じられます。ある時にはそれは、不安定で儚く、けれどその無意識の内に大きな力を秘めた、少女という存在になぞらえられます。これまでの油彩画には、大きなキャンバスに、写真と見紛う程の緻密さで少女の姿をした人形の顔が描かれていました。
加藤はまず自らの手で人形を作るところから制作をスタートさせ、長い過程を経てその像をタブローに仕上げます。オブジェを作り、写真撮影をし、それを地図のように足がかりにしながら、少しずつキャンバスに描き込むという作業によって、描かれる対象は単なるモノでは無く、魂を吹き込まれた普遍的な人間存在そのものへと塗り替えられて行きます。完成した絵画の印象は、明晰なスーパーリアリズムの冷ややかさとも、呪術的な力を呼び起こすマジックリアリズムとも異なる、アンヴィヴァレントな感覚を私たちに与えます。 粘土の人形たちにほどこされた思い思いの装飾-ビーズの飾りや帽子、また添えられた動物の骨や花、鳥の形のブローチなどは、少女たちが夢想する理想的な世界を形作るロマンティックなオブジェであると同時に、孤独な彼女たちにそっと寄り添う、小さな友達のようでもありました。
<展覧会について>
今回描かれた新しいモチーフもまた、彼女が身近な場所から見いだしたものばかりです。『みんなのお墓』と題された作品では、海辺に打ち寄せられたグラスビーズを使って作られたオブジェがモチーフとして描かれています。宝石のように幻想的な光を宿したそれ自体、水面に漂う見知らぬ美しい獣のようにも、もしくは全ての生き物が帰り行く場所としての、大きな墓所のようにも思えて来ます。
本展では、新作ペインティング3点と木炭画6点、人形1点が出展される予定です。「色々な存在みんなが、きらきらと暮らしている、そんな光景をイメージしている」という、作家の新たな世界が広がります。