【作品紹介】
トム・サックスの作品はいわば「手作り(ハンドメイド)の既製品(レディメイド)」。PRADAのロゴマークをつぎはぎして作られたいかにも壊れそうな水洗便器や、HERMÉSのオレンジ色の包装紙でかたどられた「マクドナルドのバリューセット」などは、まずそのクラフトマンシップに溢れた、わざと稚拙に仕上げられたディテールによって見るものの目を引きます。
エルメスもマクドナルドも、我々にとっては見慣れた消費イメージですが、あまりにも違うグレードの「記号」同士をまぜこぜにする所に彼の特徴があります。クリスマスを祝う馬小屋の中の聖家族のオブジェには、聖母マリアや幼子イエスとして「ハローキティー」のキティちゃんが鎮座する。華麗なファッションの象徴とも言えるCHANELのロゴマークが、ものものしい断頭台を覆っている-これら聖性と俗性、ファンシーなものと凶暴なもの、相反するふたつの概念をアンビバレンツに取り込む彼の作品は、しかしながら独特のユーモアによって、政治的に偏りすぎない、あくまでアイロニカルで滑稽な印象にとどまっています。
【展覧会について】
彼の最も大規模な展覧会のひとつであるベルリン、グッゲンハイム美術館の”Nutsy’s”は、等身大の大きさとその25分の1スケールの模型との両方で構成されたユニークなものでした。16ものテーマに分かれた展示空間は“Nutsy’s Cup”という架空のレーシング会場になぞらえられ、ル・コルビジェの建築模型やミース・ファン・デル・ローエの家具展の復元、レース鑑賞者へバーガーや飲み物を提供する偽物のマクドナルドブースなどがレースコースとして配置されていました。
コース途中には、サヴォワ邸とマクドナルドのドライブスルーが向かい合った模型(タイトルはコルビジェとマクドナルドをもじった”McBusier”)などが配され、言わばハイアートとして扱われる建築とマクドナルドという意味的な混在だけでなく、見る者の身体的なスケール感をも揺さぶる、遊び心と風刺性に満ちた空間表現となりました。
今回の展覧会では、彼がその”Nusty’s”に出展したマクドナルドブースの他、マクドナルドシリーズとして未発表の新作が10点近く展示される予定です。