増井淑乃

個展

潮時 High Time 2008 watercolor on paper mounted on panel 23.0 × 16.0 cm ©Yoshino Masui

増井淑乃は、細密な背景と動物とを取り合わせた水彩画を描きます。無数の点と曲線のつながりがオブセッショナルに画面を埋め尽くし、その造形は森の中のようにも、花のようにも、あるいは増殖し続ける細胞のようにも見えます。小さな相似形の組み合わせとその繰り返しは、一見装飾的にも見えますが、作家曰く「自分自身の業」とも言うべき、逃れられない不穏な気持ちを投影しているのかもしれません。
2006年の初めての個展では、紙の上に水彩絵の具をたらしてその形に沿って模様を描いていく、オートマティズム的な手法をとっていました。今回は画材と支持体は変わらないながらも、地を塗ってから時間をおいて、下絵を描かずに何度も重ねて描いていく画面は、にじみによって出来る偶然の効果と意図的に描き込まれた描線のコントラストによって、より複雑さを増してきています。描かれる馬や烏などの動物たちは、作家が実際に競馬場に通い、身近な存在として観察してきたものです。
「犬やら猫やらを兄弟代わり親代わりにしており、何時間も後ろをついてまわっていた」という作家の子供の頃の原風景が、鮮やかな色彩と独特の手法で浮かび上がります。