増井淑乃

個展

installation view at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2006

<作品紹介>
増井淑乃のドローイングは、水彩絵具で描かれた、非常に繊細な細密画です。多くのイメージは神秘的な森の中の心象風景で、木々の間に馬や猫などの動物が隠れるように描き込まれています。森の造形は、無数のドットと短い曲線の連なりから成っており、鮮やかな配色のそれらがオブセッショナルに画面全体を埋め尽くしています。
大胆な構図は、最初に薄く溶いた絵具を流し、その形に沿って点を打ち、或いは微調整を行うオートマティズムの手法によるものです。ダイナミックな曲線の流れに配された、小さな相似形の組みあわせは、ジャワ更紗やインドのペーズリー柄などの南洋のテキスタイルに見られる模様にも似ていますが、何かしらの精神的な歪みを投影しているようにも思えます。
木立の間に沈みこむように身を隠しながら、静かにこちらへ視線を投げかけている動物たちは、「犬やら猫やらを兄弟代わり親代わりにしており、何時間も後ろをついてまわっていた」という作家の、子供の頃の原風景から来ているのかもしれません。

「模様のイメージは高校の頃、突然出てきました。受験のための油絵の、余白部分を模様で埋め始めて止まらなくなった。その後何年かで、もともとの画風を侵食していく形で今に落ち着きました。子供の頃から現実感が希薄でした。周囲が自分とは別のところにあるような感覚にしばしば襲われたので、模様を繰り返すことによって自分なりに世界を把握しようとしているのだと思います。」(作家談)