工藤麻紀子

工藤麻紀子展

花がらのふとん Floral patterned futon 2015 oil on canvas 162.0 × 130.5 cm ©Makiko Kudo

作品紹介

工藤麻紀子の絵画には、彼女が日常生活で出会ったものと、夢で見た世界のようなイマジネーションが渾然一体となった不思議な心象風景が広がります。ダイナミック且つ繊細な筆致、バランスの取れた鮮やかな色彩、そして複数の場面とパースが同時に展開する大胆な構図によって、カオティックな躍動感に満ち溢れています。

彼女が描き出すのは、無意識に見たものを吸収してしまうという彼女自身が実際目にし、体験した世界であり、彼女の身の回りの親密な存在ばかりです。散歩途中に見た花や実や草木、夜空の星月、故郷の風景の一コマ、実家のネコ、鳥や少年少女など、それらは、重力から解き放されたように軽やかに浮かびながら、まるで有機的に同化したように佇み、 どこか寂しげで儚い夢のような、懐かしい記憶をたどるような物語が展開されます。アーティストのタカノ綾は、工藤の作品を初めて見た時の印象を「別の宇宙へ来たみたいだ」と表現しました。
この浮遊するような感覚は、鑑賞者自身が作品世界に入り込んで浮かび上がるかのような、あたかも登場人物が自分の分身のような驚きを与えるのです。

また、少女性を帯びたモチーフは一見現代的にも見えますが、奥行きを抽象的に塗りこめ、複数の場面とパースを混在させる構図、描き方は、眼に映る事象の立体的な色彩を画面にそのままに表す、古典的な絵画表現に通じるものです。工藤の作品に対して、美術評論家の松井みどりは次のように評します。

「工藤の絵においては、色の広がりや絵画空間内の配置が、しばしば絵の感情的意味の伝達手段になる。・・・(中略)そうした、色面の使用による感情的象徴性の獲得が、工藤を、ゴーギャンやムンクを典型とする表現主義絵画の系譜に連ねる。その一方で、人物や動物を、同一色の配置や指し色を通して画面構成するための構成物として使う、彼女の装飾的とも言える手法 ・・・(中略)は、工藤に、マティスを理想とする、モダニズム絵画の末裔の資格を与える。」
(松井みどり「色面の溶解と世界の再生:工藤麻紀子の進化する絵画平面」『まわってる Turning』小山登美夫ギャラリー、2012年)

また、キュレーターであり批評家のデヴィッド・ペーゲルは、ロサンゼルス・タイムズのレビュー記事で、モネの睡蓮やルソーの夢幻的リアリズム、マティスのフォーヴィズムなどに言及しながら、「彼女の胸を打つ作品は、アニメ世代の鞭打ち症的な絵画表現にとって、親密でありながら内省をもたらすものだろう。自分の本当のふるさとだとはどうしても思えないような場所から逃れることができない、というパラドックスが、工藤の卓越した主題である」と評しました。

油絵をドローイングのように軽やかに描き、塗り直しをほとんどしないといいます。自身の描き方に関して、工藤は次のように述べています。「自分としては、一回目に塗ったところと二回重ねて塗ったところ、三回塗ったところ、何もないところが、それぞれバラバラにあるほうが描いてて気持ちがいい。一回目の塗りのキレイさを残したいと思うんです。」「デコボコ感がでるのがうっとうしくて、上から重ねるとさらに気持ち悪くなって嫌なので、いつも一発で決めたいなと」

美術評論家のバリー・シュワブスキーは工藤のペインティング、筆致についてこう評しました。
「工藤のペインティングには、知る事、そして不思議に思うことがたくさんある。彼女が色を加えるときの無数の筆致の変化はそのひとつである。(美術評論家の)テリー・R・マイヤーズは、工藤の「ペインティングとしての複雑さのレベルと、ここ十年の日本のペインティングにはない『タッチ』」に正しく言及するが、私が強調したいのはその制作の複雑さが二つの感覚を示しているということだ。「フラット」であるとは考えられない実体としての、密度が高く、豊かなニュアンスと様々な面をもつペインティングの表面と、そこにあるセンセーションと衝動の感覚である。その多面性のオーケストラのうちに、最近の工藤の作品はクラッシックな壮麗さを獲得している。」
(バリー・シュワブスキー「幸福の総数」『まわってる Turning』小山登美夫ギャラリー、2012年)

工藤の繊細で大胆な筆致は、色とフォルムの素晴らしい「オーケストラ」となり、彼女の記憶や体験から解き放たれた作品のモチーフたちは、まるで私たちが忘れかけた幼年期の感受性が大きなうねりを伴って、観る者の胸に迫って来るかのようです。

展覧会について

小山登美夫ギャラリーでは2013年以来3年ぶり、6度目の個展となります。
工藤は今回の出展作「花がらのふとん」の制作について「ずっと前から菊が描きたいなと思っていました。本を読んでも内容を忘れてしまうことが多いのですが、印象的な文だけ覚えていたりして、太宰治の小説のなかで菊の花ばかり描いている下宿人がいるという内容をずっと覚えていて、菊を見るたびに思い出していました。掛け布団はいまは無地だったりするけれど、子供の頃は和風の花柄で、その柄が見えるように真ん中がメッシュになっていたなと思ったり。動機というよりただの連想かと思うのだけれど、そういうことで描いていたりします」と言います。
また、工藤は自身の絵に対して、「見た人が、『これ見たことあるな』って、すんなり入っていければいいなと思っています。自分が好きな絵も、拒否されない、理屈なくすっと入っていける絵だから。」と言います。
本展では、大小約18点の新作を発表致します。

  • Installation view at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2016 © Makiko Kudo Photo by Kenji Takahashi
  • Installation view at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, Japan, 2016 ©Makiko Kudo photo by Kenji Takahashi
  • Installation view at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, Japan, 2016 ©Makiko Kudo photo by Kenji Takahashi
  • Installation view at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2016 © Makiko Kudo Photo by Kenji Takahashi
  • Installation view at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, Japan, 2016 ©Makiko Kudo photo by Kenji Takahashi
  • Installation view at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, Japan, 2016 ©Makiko Kudo photo by Kenji Takahashi
  • Installation view at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2016 © Makiko Kudo Photo by Kenji Takahashi
  • Installation view at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, Japan, 2016 ©Makiko Kudo photo by Kenji Takahashi