サイトウマコト

「蜜が蜂を呼ぶように。 Like Nectar Attracting Bees」

Installation view from “Like Nectar Attracting Bees” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2011 ©Makoto Saito

【作品紹介】
グラフィック・デザイナーとして活躍したサイトウマコトは2008年、画家として初めて作品を発表しました。その金沢21世紀美術館での個展「サイトウ・マコト展:SCENE [0]」では、 映画作品から引用されたイメージを緻密に再構成した、それがコンピューターによるものとは思われないほど、重層的な絵肌をもつペインティングを展示しました。絵画の生まれ方は人間の数ほどある。そう考えるサイトウは、作品と自分の間に第三者(=コンピューター)が入るという“突き放した距離感”のある独特の手法を使って、映画のシーンに現実社会の人間を重ねた作品を制作しました。
展覧会後の対談で、彼は次のように話しています。「デザインには目的がある。クライアントが発信したいことを、いかによりよい形でアピールするか。アートの場合は、 自分が何を伝えたいかに尽きる。(「<秋元康“アートのすすめ”>第4回ゲスト サイトウ・マコト」『美術手帖』2009年1月号)」100人中98人が自分の表現に共感してくれずとも、 2人が自身の作品をこの上なく好いてくれることが、創作への力になる。自分は大勢の共感を得るようなタイプの作り手ではなく、そのことはむしろ恐怖である。このように彼は言います。アーティストとしてのサイトウマコトの、表現への貪欲な挑戦を是非ご高覧ください。

【展覧会について】
サイトウが今回作品のモチーフとして選んだのは、女性のからだであり、セックスです。間近に作品に対したとき、私たちの眼に入るのは、印刷物のドットを用いた描法と、絵の具の盛り上がりです。そこから遠ざかっていくと、次第に網点がイメージを結びはじめます。言うまでもなくヌードは、美術史の中で作品の主題として幾度となく描かれてきました。そして時に、“倫理的・道徳的”という言葉を盾にして、非難の対象ともなりました。そのため画家はしばしば、女性のヌードが純粋に造形的に美しいものであるが故に、絵画主題に選ぶのだと誤魔化し、私たちを錯覚させてきました。しかしサイトウは、アートは美しく、セクシュアルであるべきで、女性の体を描きながらそこにエロティシズムを感じさせないアートに意味はない、と言います。そのため彼は、女性のからだをモチーフに選び、それがいかに生きることへの欲望を掻きたて、エロティックな魅力を備えているかを、真正面から描きたいと考えました。作品は、自らの性行為の間に撮った写真をもとにしています。サイトウは作品を通じて、「真に美しいものはなにか」ということを挑戦的に、しかし気品を持って問いかけます。彼が出展作で伝えたいのは、性への偏見というよりもむしろ、危うきに触れず、生ぬるい調和を重んじる社会への強烈なアンチ、そして、 それに容易く順応できる器用な人間たちへの疑問なのかもしれません。

  • Installation view from "Like Nectar Attracting Bees" at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2011 ©Makoto Saito
  • Installation view from "Like Nectar Attracting Bees" at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2011 ©Makoto Saito