【作品紹介】
桑久保 徹は彼が思い描くいわゆる職業画家を演じるパフォーマンスとして、自分の中に架空の画家を見いだし、印象派を思わせるような油絵具を厚く重ねたペインティングを制作するという、演劇的なアプローチで制作活動をスタートしました。以降、絵の具の豊かな物質感や描き手の身体性などを通して、媒体としてのペインティングの可能性を探求し続けています。物語(ナラティブ)もまた、桑久保の制作に重要な要素となっています。桑久保は2002年に、芸術論とともに短編小説が収録された「海の話し 画家の話し」を自ら発行しています。物語は往々にしてイメージの源泉として、おそらくその続きや、またいかにしてペインティングがそれらを表し伝えることできるかということの探求のなか、画面の上で様々な色やフォルムへと姿を変えていきます。
【展覧会について】
海、そして浜辺は桑久保の作品に最もよく描かれる、重要なモチーフです。伸びていく海岸線、水平線、波の音。これらは永遠を感じさせるとともに、自然を前にした人間のはかなさを感じさせます。今回の展覧会に、桑久保は海辺での美しい夏の一日についての物語を寄せています。
「海は淡いブルーで、水平線に近くなるにつれてターコイズのような色に近づいていきました。彼方に小さな白波が現れては消えて行きました。・・・それはとても明るくて、美しい光景でした。光がネガ・フィルムに焼きつくように、その光景はわたしの奥深くに強く焼きついたようでした。わたしはしばらくして、この光景が永遠に忘れることのできないはかない類のものであると感じました。」
(「忘れることができない、素晴らしい一日」より抜粋)
シンガポールで初めての個展となる本展では、桑久保の新作のペインティングを約13点展示いたします。