<作品紹介>
小出ナオキは主にFRP(合成樹脂)、セラミック、木などを用い、愛らしくもどこか不気味で不思議なキャラクターのような立体作品で、自身とその家族を作品化してきました。テーマは「永遠にいなくならない家族」。しかし登場するのは、実在する家族ばかりではありません。他界した家族が姿を変えたもの、雲のお化けやドクロなど、異界のものたちが小出一家と共に一堂に会します。ヒンドゥ教のそれから着想したという、ピカピカと安っぽく電飾が光る祭壇のような設えの中では、可愛い盛りの幼い娘までもが悪魔のような表情を見せます。そこには”家族の肖像”と呼ぶにはあまりに混沌とした、ゆえに自由な世界が広がっています。小出の作品について、美術評論家の森口まどか氏は次のように書いています。
「日常や自己の内なるところから着想する在り方は、小出にかぎらず、今日のアートシーンにあっては定跡といっても良いほどだと思うが、その場合、微温的な暮らしをそのままかたちにしても作品としての強度は持ち得ない。小出ナオキの場合、臆面もなく家族や身近な人たちとの出来事を語りながら、センチメンタリズムに堕ちず、事の本質を見据えるふてぶてしさが、アーティストとしての核をなしているように見える。」
(森口まどか 「小出ナオキの現在性」『Maternity Leave』小山登美夫ギャラリー、2012年)
2004年の小山登美夫ギャラリーでの初個展「二人の浴室」では、親密な関係を象徴する寝室や浴室に配されたカップルが主役になりました。2006年の「Marriage」では、結婚式の衣装を身にまとった夫婦の立体作品、そしてそれを実際に式場に配置して撮影した自身の家族のポートレート写真を展示。そして2008年の「In These Days」では、引っ越した新居と、他界した家族がモチーフとして登場しました。子どもの誕生をテーマにした2010年の「Maternity Leave」は、男性である小出が、妻の身におこった出産という出来事を、素直におどろきながら見つめるまなざしが、作品全体を包みました。
また、小出は滋賀県立陶芸の森で滞在制作の機会を得たこともきっかけに、2009年頃から彫刻の主な素材をFRPからセラミックに変えました。セラミックは窯焼きなどの制作の過程で、思いがけず表情を変えることがあります。FRPにはない、いわばセラミックという素材特有の”裏切り”を、小出は「まるで、子どもが産まれてくる前の父親に産まれた後の生活が想像できないような、そして、産まれて初めてその意味がようやく理解できる感じと似ています。制作する意味、が少し分かってきたような気がしている。」(小出ナオキ「主題」『Maternity Leave』小山登美夫ギャラリー、2012年)と語ります。小出は今の自身にとって最も心地よい素材に出会い、それは、作家の制作意欲を掻きたてます。なにか子供のころの、無邪気で、しかし真剣な遊びの延長にあるかのように制作される作品は、詩情にあふれ、自伝的でありながら、鑑賞者の記憶を本質的に刺激するような魅力をもっています。
<展覧会について>
本展”Read Me a Story, Daddy”では、大作の3点を含む陶彫、木彫作品のほか、映像作品を展示予定です。
出品作の高さ140cmほどの陶彫「tree (house)」は、木がモチーフで、作家自身にも思われる顔がついています。眼にあいた穴からは、すこし間の抜けた表情のいきものたちの暮らしが覗きます。
「Maternity Leave」に続き、本展でテーマにされているのは、子どもが加わった家族の暮らしです。初挑戦となる映像作品では、作品を自宅に置いて撮影した映像に、小出の家族が絵本を読み聞かせする声が流れます。