現代を代表するアーティストの一人、ダミアン・ハースト。90年代初頭に発表した、巨大なサメをホルマリン漬けにしたセンセーショナルで挑発的な作品が、美術界はもちろん多くの人に衝撃を与え、表現の新たな可能性を確信させるとともに、YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)の代表格として現代美術史に名を刻みました。ハーストは生と死をテーマにした一連の作品と並行して、合理的でシステム化を徹底した作品世界を生み出しています。本展覧会では2002年に制作された「In a Spin, the Action of the World on Things, Volume I」(スピン・エッチング全23点・68部限定)を展示します。本シリーズで作家は、回転する版に針やドライバーを押し当て製版を行っています。版のスピーディな回転から生まれた規則的な円の連なりの上に、不規則に広がるペイント。作家の鋭敏な感性が画面中心から外の世界まで広がります。ダミアン・ハーストは1965年イギリス、ブリストル生まれ。1984年にロンドンに移住し建築現場で働いた後、1986年から1989年までゴールドスミス・カレッジにてファインアートを学びました。在学中の1986年、最初の「スポット・ペインティング」シリーズの制作を開始。1988年には学生達によるグループ展「Freeze」を主催、キュレーションを手がけ、この展覧会はハーストのみならず、YBAの名が一躍世に広まるきっかけとなりました。1995年牛の親子をそれぞれ真っ二つに切断しホルマリン溶液に浸した作品「Mother and Child Divided」にて、現代美術界で最も重要な賞の1つといわれるターナー賞を受賞。数千のダイヤを骸骨に散りばめた作品「For the Love of God」など、一貫して、生と死、宗教、美、科学などをテーマに制作を行ってきました。現在まで80以上の個展と250以上のグループ展が世界中で開かれており、2012年にはテート・モダンにて大回顧展が開催されました。