廣瀬智央

BLUE BOX

Installation view from “BLUE BOX” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, Japan, 2005 ©Satoshi Hirose

【作品紹介】

廣瀬智央の作品テーマのひとつとして「旅」があります。旅とは必ずしも日常からの逸脱ではなく、移動することによって異なるフェーズを見せる新たな「日常」を見つける行為でもあります。
「移動性のあるもの、つねに動いていくもの」に心魅かれると同時に「日常の中に、何でもないと思っているものにヒントが隠されている」と語る廣瀬にとって、空というモチーフは移動しても見上げることのできる日常の鏡のようなものです。

【展覧会について】

本展で発表される『BLUE BOX』は、彼の空を巡る思いがひとつの結晶になったかのような、様々な要素が詰まった立体作品です。透明なアクリルボックスは「空の家」であり、中に入った4段組の青い箱には、様々な作品-空の写真作品、オリジナルコラージュがついた作品集、ドローイングなどが-納められています。
「空のクロニクル」と題された箱には、イタリア、ルネッサンス期の画家ジオットが空を描く際に用いたと言われるラピスラズリの粉、作家が選んだポストカードなどが入っています。また、購入者は「空に旅をさせるプロジェクト」に登録することになり、以後3年間、年に4回、作家から直接郵送される新作の空のスライド写真を受け取って、この箱の中に収めます。作家と作品所有者が「交通」することによって、この作品は初めて完成されるのです。
本作品は「カーサ(家)」というシリーズの一環でもあります。2003年、トリノのニコラフォルネッロ・ギャラリーで発表した『塩の家, 1994』は、角砂糖のブロックで作られた純白の家のなかに、ぎっしりと塩が入っていました。同じく2003年トリノで発表し、その後「No Place like a home」展、パルマなどに巡回した『蜜蝋の家』では、背の高い脚のついた木製の箱を作り、鑑賞者がはしごを登って窓を覗くと、蜜蝋で固められ、その香りに満ちた部屋の中を見ることができました。蜂の移動性に作家自身を反映させています。また、2004年、ナポリのウンベルト・ディ・マリーノ・ギャラリーでの『ナポリの家』と題した作品では、ナポリ式コヒー・メイカーのごとくギャラリー内に反転した茶室(待庵と同じサイズ)が中空に浮かんでおり、天井(床)にはコーヒー粉が敷きつめられています。鑑賞者は、家の中にも入ることができます。境界を越えたコミュニケーションとしてのカフェ文化やローカルな文化への眼差しが見て取れます。

視覚だけでなく触覚や嗅覚にも訴えかけ、鑑賞者と作品との往還を図る廣瀬の作品の中で、今回の「空の家」は、私達と作家、作品の間に流れる時間や空間を感じさせてくれます。日常に身を置きながらの「旅」を見つけに行く気分で、どうぞご高覧ください。