【作品紹介】
シュテファン・バルケンホールは、一本の木から台座ごと彫り出す立像、その背景としての役割を担うようなリリーフ、また絵画のように顔のポートレートだけが彫り込まれたレリーフなどを制作しています。モチーフとなるのは人物、動物、建築などです。「普通の人(”everyday man”)」と彼が呼ぶ人物たちは、個性や表情、服装や持ち物などの説明的要素を一切排除されています。それでいて生き生きとしたそれらの人物たちは、普遍的で親しみやすいようにも思えるし、不思議で孤独な、遠い存在にも思えます。また一方では、バケツを被った男性(”Man with bucket on his head” 2007)など、ありふれたものを意外な風に組み合わせ、遊びやユーモアの要素を与えられた作品もあります。
このようなバルケンホールの具象彫刻の制作の背景には、1970年代ミニマリズムやコンセプチュアリズムの台頭、それに繋がる具象の解体や排除の流れがあります。また一方においては、彫刻が政治的モニュメントや図像的にしか使われなかったという19世紀の歴史があります。これらのコンテクストへのレスポンスとして、バルケンホールはミニマリスティックな要素も兼ね備えた具象彫刻を追究し続けてきました。説明ではなく描写、そして彼の言う「現実と美」の表現へのアプローチが、鑑賞者の様々な感情や表情を喚起する詩的な作品を生み出してきました。
特定の物語を持たないバルケンホールの作品は、彼が素材に徹底的に向き合っていることをも感じさせます。鑿(のみ)あとや、ささくれにそのまま彩色が施された作品は、繊細かつ力強く、彼が自発的な作品の生成を重要視していることを示しています。素材、制作のプロセス、展示される空間などと一体になって初めて完結するバルケンホールの作品は、在るということの可能性への研究でもあるのです。
【展覧会について】
本展は、前回の東京、清澄の小山登美夫ギャラリーでの個展より約3年半ぶりの個展となり、バリエーション豊かな作品が展示される予定です。是非ご高覧ください。