【作品紹介】
伊藤彩の作品にはゾンビやお化け、そして「ケツの穴」などの「アーティスティックではない、ガキみたいな下ネタ」のモチーフが登場します。鑑賞者はまず驚き、笑い、そして彼女が思いつくまま奔放にこれらを描いているのかと考えるかもしれません。しかし独特の空間性をもつ伊藤の作品は、様々なプロセスを経て構成されているのです。伊藤は作品ごとにマケットを作り、写真を何枚も撮りながら視覚的効果を検討したのち、ペインティングを制作するという「フォトドローイング」と彼女が呼ぶ手法をとっています。「日々の経験に妄想や空想を加えたもの」を動員しながら進行するこのプロセスのなかで起こる偶然性、それを伊藤はある種の濃密なリアリティへと変換させます。「ゾンビも現実の一部となって、同じ世界に住んでいるような立場にしたい」。物語性が無く、あったとしても無意味であるという彼女の作品のもつリアリティは、鑑賞者の意識を取り込み、異化するように思えます。
伊藤は「イメージよりも写実、そして単なる写実よりもコラージュに惹かれた」と言います。ペインティングだけでなく、立体、インスタレーション、写真といった様々な要素を縦横に使うことで、伊藤は独自のリアリティにアプローチします。
【展覧会について】
本展は、上述の「フォトドローイング」のプロセスを用いて制作した、人がモチーフの油彩の新作ペインティング4、5点と、ドローイングを展示いたします。ドローイングはこれまで、「フォトドローイング」の材料として切り取って使用、あるいは立体の制作のために描いていましたが、作品として発表するのは今回が初めてです。タブローとドローイングの境界線をできるだけなくすために、展示にも工夫を加える予定です。
物語性よりも作品がもたらす雰囲気を重要視する伊藤は、今回の展覧会にはテーマは設けず、作品については「穏やかでシリアスでシリーな感じ」で、「『感じ』の部分を大切にしたい」と話します。是非ご高覧ください。