〈作品紹介〉
1950年代以来オノ・ヨーコは、鑑賞者の想像力を解放させ、行為を触発し、政治や社会の矛盾に切り込むような作品を発表し続けています。その表現形式は美術、音楽、映像、パフォーマンス、詩と幅広く、フルクサス、コンセプチュアルアート、ヴィデオアート、フェミニストアートなど、重要な芸術運動にも多くの影響を与えています。
特にオノは独自の詩のあり方によりコンセプチュアル・アートの先駆者として、現代社会の深刻な課題に対して、ユーモアをも含んだ思索的な表現で世界中に発信してきました。それらは、外部からの攻撃に屈せず、社会の規範や固定された価値観へ疑問を投げかけるオノの揺るぎない意思によって生み出されてきたのです。また生と死は人間の根源的運命という、実存的視点から見つめる表現により、彼女の作品は社会が変化を迫られる時に未来への力や希望を与えてきました。
たとえばオノは自身の芸術的創造に関して、1966年のテキスト<ウェズリアンの皆さんへ>において「外の沈黙に通じるための内的沈黙を必要とする」一種の音楽であると述べ、彼女にとっての唯一存在する音楽とは、思考する「心の音」であり、彼女の作品は、他の人々の心の中に鳴っている音楽を引き出すためにあるのだと語っています。
また、美術評論家の松井みどりは、90年代以降の作品に対して次のように評しています。
「こうした一連の作品は、死と再生の循環のヴィジョン、個人の運命と人間全体の運命の繋がり、苦しみを通した希望の強化といった対立する両極の葛藤から人生の真理を汲み取ろうとするオノの姿勢を示している。」
(松井みどり「心の壁、光の奥:オノ・ヨーコの実存的アレゴリーと『灯への道』」、『灯 あかり オノ・ヨーコ』小山登美夫ギャラリー、2013年)
美術評論家のジェリー・ソルツはNew York Magazineのレビュー記事で、2015-16年にNYのGalerie LelongとAndrea Rosen Galleryで同時開催された個展「THE RIVERBED」について、以下のように評しました。
「・・(中略)彼女の作品は、言葉で趣を添え、詩的かつ感傷的な望みを込めたミニマリズムとして、私に衝撃を与えた。この二つの展覧会は、オノが鑑賞者に壊れたカップやソーサーを元通りに組み立て直してもらう事で、素材の持つ力強さを感じさせ、また物を壊し人々にそれらを再び組み立てさせるというオノの素晴らしい表現を見る事ができる。それは『ヒーリングミニマリズム』と呼べるものだ。」
オノ・ヨーコは長年にわたり、常に自分が感じた事に耳を傾け、現実社会のかすかな気配を聴きわけながら、作品制作と観客との出会いの中に真実や希望を見いだすべく表現、探求し続けています。
〈展覧会について〉
本展「硝子の角」は、小山登美夫ギャラリーでは5年ぶり2回目の個展となります。鍵、ハンマー、シャベルをモチーフとした、2014-16年制作のガラスのエディション作品と、2003年パリ市立近代美術館で行われた個展「Yoko Ono Women’s Room」にあわせ出版された書籍「Spare Room」のテキストを、障子を用いたインスタレーションで構成致します。心に感じた想い、想像上の出来事、そして実際の体験を基にしたオノの短いテキストが空間全体に広がり、ガラスの作品とともにオノの世界観をご堪能いただける展示となります。
オノは1972年「ナウ・オア・ネヴァー」の中で次のように語っています。
「ひとりでみる夢はただの夢
みんなでみる夢は現実だ」
オノ・ヨーコの新しい表現に出会いに、是非お越し下さい。