小出ナオキ

個展「Marriage」

Marriage (parents) 2006 C-print 100.0 x 125.0 cm ©︎Naoki Koide

小出の作品世界は、主に FRP(強化プラスチック)を素材として作られる彫刻とそれらの写真によって展開されます。モチーフとなるのは、作家本人とその周囲のごく親しい人々、或は架空の動物たちです。上下に引き延ばされるようにデフォルメされたフォルムや、やすりで何度も削られたつるりとしたマチエール、少しくすんだパステルトーンの色調など、その印象は遊園地のアトラクションに造られたセットや、街角で見かける雨風にさらされた広告用のキャラクター人形を思わせます。けれどそれらが醸し出すのは極めて個人的な親密さであり、商業的なキャラクターの持つポップで明確なイメージというよりは、茫洋とした表情の中に浮かび上がる遠い記憶の不確かな肌触りがよみがえってくるかのようです。2003年の「マジック ルーム」に出展した作品では、他界してしまった家族と今を生きる家族、そして作家自身が邂逅し、かつてあった風景のように家族の思い出をたぐり寄せています。翌年2004年、Project Room で展示された「二人の浴室」では、作家自身を思わせるカップルが浴室とそれに並ぶ寝室というやはり親密な空間の中にインスタレーションされました。その近くには、クジラの背中から小人が顔をのぞかせていたり、小さなカバが二本足で直立したりといった奇妙な動物たちが、魔除けのように配されていました。これらの彫刻はまた、作家自身の手で様々な場所に運ばれ、その姿を撮影した写真作品も重要な要素となっています。立体作品としての存在感よりも、2次元的なイメージの中から抜け出してきたかのようなオブジェが、作家の心象風景の中に再現 されていきます。
「夢を見ている時、自分の中ではリアルに経験しているのに実体がないというような感覚や、思い出の中の人や空気をよみがえらせる感覚」をもとに作品を作っているという小出が作り出す空間は、曖昧な輪郭の世界において密やかに、しかし確かに感じられる幸福感に満ちています。

本展では、作家のアトリエと仲間たちの立体作品、結婚式を挙げているカップルの彫刻の他、レリーフや変形ドローイング、ウォールペインティングなどの多彩な作品がご覧いただける予定です。この機会に是非御高覧下さい。