菅 木志雄

「分けられた指空性」

止潜 Halted Latency, 2017 wood, acrylic h.188.5 x w.150.0 x d.10.5 cm ©Kishio Suga

菅木志雄は、1960年代終わりから70年代にかけて起こった芸術運動「もの派」のメンバーであり、同時代を生きる、戦後日本美術を代表するアーティストの一人といえます。「もの派」以降も東洋的思想に共鳴した独自の哲学に基づき、素材や物質、空間に対して様々なアプローチをしかけ、「もの」の持つ存在の深淵を顕在化させてきました。「もの派」への評価が国際的に改めてクローズアップされている昨今においても、菅は更にその思考を深化させ、追求し、その表現をし続けています。

菅は1968年の初個展から現在に至るまで、国内外幾多もの展覧会で作品を発表していますが、昨年から今年にかけての 国際的な活躍が際立つ展覧会活動は、菅の約50年にわたる作品制作の歴史においても特筆すべき重要なものとなるでしょう。
昨年2016年には、リオ・デ・ジャネイロ オリンピック・パラリンピック開催にあわせ開催された、日本の戦後美術史に焦点を当てたブラジル初の美術展「コンテンポラリーの出現・日本の前衛美術1950-1970」(パソ・インペリアル美術館、リオ・デ・ジャネイロ)への出展、およびイタリア、ミラノのファンデーションPirelli HangarBicoccaでの個展をはじめ、イギリス、スコットランド国立近代美術館でのカーラ・ブラックとの二人展、アメリカ、ニューヨークのDia: Chelseaでの個展と、欧米の美術館において連続して展覧会を開催いたしました。そして今年2017年 5月13日〜11月26日に開催される、第57回ベネチアビエンナーレ国際展「VIVA ARTE VIVA」の出展作家として選出されており、その活躍はとどまるところを知りません。

菅木志雄展「分けられた指空性」は、小山登美夫ギャラリーでの個展としては2015年「志向する界景」以来6度目の開催となり、大小含め約30点の新作を発表致します。 本展は、益々飛躍を遂げる菅の最新作をご覧いただける、大変貴重な機会となります。

【作品に関して】
菅の考える「もの」とは、木や、石、金属、ガラスなどの物質、素材のみでなく、空間や人間の思考、意識、概念などの眼に見えないもの、抽象的なものをも含んでいます。
菅は『石を「これはもしかして石ではないのかもしれない」とまで考える』(「もの派の成立をめぐって」菅木志雄トーク、シンポジウム「もの派とアーカイブー海外への発信をめざして」、多摩美術大学、2016年) と語るように、誰でもが認識できるものを否定し、ものとの対話を繰り返しながらものの本質や存在性(リアリティ)とは何かを再認識していきます。

 わたしは、自分の作品にパラフィンを使用したけれど、パラフィンというもので、何か他のもののかたちや存在を表したかったので はない。 わたしは、パラフィンそのものを提示し、その在様を表示したかったのである。パラフィンというものがどんな特質や属性を持っているか、どのように見えるものなのか、最小限のかかわり方で、存在性を引き出してやりたかった。
 ・・(中略)事物性と精神性のむすびつきが、それまでにない<世界性>を醸成できるのではないか、と秘かに考えていた。

(菅木志雄「ものはあるように、あった」もの派ー再考展図録、国立国際美術館、2005年)

そして菅はものを時に融和させ、時に対峙させながらものを空間に配置し作品を構成します。それは、ものを単独で存在させるのではなく、通常我々が目にするものの在り方とは異なる方法で「もの」と「もの」、「もの」と「場」、「もの」と「人」を接し、つなぎ、囲い、相互に依存しあう「連関性」 や「差異」、「領域」や「複合性」を 表出させ、まるでものが新たな形や状況、場まで立ち現わしているかのように感じさせます。

 普通でない状態にしていく。そういうものは異常。 でもその異常性が、同じ日常の中に在るという事を、知らないといけない。
・・(中略)ものの変わりぐあいは、人には簡単に見えない。ものとものとを分ける境目は、ものがそこにあることを知る上で重要です。見えないものの領域は、表層の奥にあると考えられます。表層を縁取っている、ものの象徴性や抽象性を読み分けなくてはならない。内部の構築性がなければ表層はあり得ないから、表層を知ることによってものの生起している全体を知る事になるのです。

(菅木志雄インタビュー「モノの」力と思考する人間の力が活きる場所みたいなものを探す)聞き手=松井みどり、美術手帖、2015年3月号)

また、菅は本展に際し次のように述べます。
 「<もの>のもの足り得るあり方に意識を向けると、そこには、どうしても『相依』している状況があらわれてくる。ひとつの<もの>や、<ある状態>を考えようとすると、自分が目指しているものだけでなく、もろもろの<もの>がつながってくる。やっかいなことに、それぞれの<もの>が、わたしが直接関与するかどうかにかかわらず、それぞれにリアルにあるべき存在性と現実感をかもしだしている。それらはそれなり性向をもち、そこにあるべき姿が、当然そこにあるべきことを主張している。単純に見える状態もあれば、複雑な様相を呈したものまであるが、それらは、『相依性』が基盤にある。ものによっては、わたしが使用しようとする<もの>に、直接かかわっているものもあれば、間接的にあって、見えかくれしているものまで種々である。ただ<ある>というのであれば、わたしはなんの苦労もなく、モノ(作品)を表わすことができるだろうが、なかなかそうはかない。なにしろ『相依性』という前提があるので、自らの位置をそのつどさがさなくてはならない。だからわたしは、いつも有の無の間でウロウロしているのである。」
(菅木志雄「有と無のあいだで」、2017年)

菅の作品は、ものともの、ものと人の精神の、対立するのではなく、支え合う関係やむすびつきにより、それまで我々が気づく事のなかった世界観が表出され、ものを見る事で自分がどういう人間性、指向を持っているかという内省をも促すようです。

それは菅作品における身体的な複雑さと実感を伴った多くの示唆に富んだ視点を体験する事で、現代のヴァーチャルネットワーク社会に生きる私たちの普段の意識を解放し、もう一つの新しい眼や活性化された精神を獲得するきっかけとなる得ることを表します。 加えて菅の未知なるもの、新しいものへの好奇心、そして制作への尽きる事ない情熱が菅作品の現在性を生み、それらが今日の菅の評価に結びついていると言えるでしょう。

今も現在を生きている歴史的なアーティストの、色褪せる事のない鋭敏な感覚による最新作を、同時代に生きる多くの方々にご覧いただきたいと思っております。ぜひこの機会にお越しください。

縁因化 Cause of Boundary, 2017
wood
h.182.5 x w.144.0 x d.41.5 cm
©Kishio Suga
縁因化 Cause of Boundary, 2017
wood
h.182.5 x w.144.0 x d.41.5 cm
©Kishio Suga

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プレスに関するお問い合わせ先:
Tel: 03-6459-4030 (小山登美夫ギャラリー オフィス)
Email: press@tomiokoyamagallery.com (プレス担当:岡戸)
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作家プロフィール

菅 木志雄

1944年、岩手県盛岡市生まれ。1968年多摩美術大学絵画科を卒業。在学中の1967年には第11回シェル美術賞を受賞。1968年の初個展から現在に至る50年以上のキャリアの中で、数多くの展覧会に出展してきました。近年の国内での大規模な個展として、2014年11月‾2015年2月、ヴァンジ彫刻庭園美術館にて「菅木志雄展」、2015年1月‾3月には東京都現代美術館にて「菅木志雄 置かれた潜在性」と、国内で2つの個展が同時期に開催され、大きな話題となりました。
国際的にも活躍の場を広げており、1978年には第38回ヴェネチア・ビエンナーレに出展。他「前衛芸術の日本」(ポンピドゥーセンター、パリ、1986年)、「戦後日本の前衛美術」(横浜美術館からニューヨークのグッゲンハイム美術館へ巡回、1994年)、「太陽へのレクイエム:もの派の美術」(ブラム&ポー、ロサンゼルス、2012年)等数々の展覧会に参加しています。さらに菅木志雄は2016年秋、イタリア、ミラノのファンデーションPirelli HangarBicoccaでの展覧会をはじめ、イギリス、スコットランド国立近代美術館でのカーラ・ブラックとの二人展、アメリカ、ニューヨークのDia: Chelseaでの個展と、欧米の美術館において連続して展覧会を開催しています。 その他2016年は、3月‾6月中国・烏鎮のWuzhen International Contemporary Art Exhibitionでのグループ展7月〜8月リオ・デ・ジャネイロのパソ・インペリアル美術館でのグループ展「コンテンポラリーの出現・日本の前衛美術 1950-1970」も開催し、今年は第57回ベネチアビエンナーレ国際展「VIVA ARTE VIVA」の出展作家として選出されるなど、その活躍は枚挙に暇がありません。
作品は、東京都現代美術館をはじめ多くの国内の美術館の他、イギリスのテート・モダン、ダラス美術館、M+、グッゲンハイム・アブダビ、グレーンストーン財団、スコットランド国立美術館、ピノーコレクションなどにも収蔵されています。2016年1月には、第57回(2015年度)毎日芸術賞を受賞致しました。