菅 木志雄

「潜態の場化」

Installation view from “Placement of the Hidden Currents” at Tomio Koyamagallery, 2012 ©Kishio Suga photo by Keizo Kioku

» 作品紹介

菅木志雄は、1960年代終わりから70年代にかけて日本で活動した「もの派」と呼ばれる潮流の代表的作家のひとりです。多摩美術大学で教鞭を取っていた斎藤義重に学んだ菅は、木材や、石、金属片、ガラス板などの素材を空間に配置し、「もの」と「場」、「もの」と「もの」の新たな関係をサイト・スペシフィックにつくりあげます。 作品には日常的な素材が用いられ、加えられる手数は極度に抑えられます。タイトルは作家自身の漢字の造語によってつけられ、彼がコンセプトを重視するアーティストであることを示します。しかし、その他のコンセプチュアルなアーティストと菅が違うのは、菅がコンセプトは眼前の「もの」に予め備えられていて、アーティストの役割はそれを聞きとることだ、と考えることです。作家は数ある本人のテキストやインタビューの中で、「もの」に備わっている<見えざるもの>を<見る>という言い方を繰り返し用いています。こうした菅の言説は、もの派の概念に太い骨格を与えました。
菅は、制作に至る遙か前の段階としての、この<見る>という行為に、多くの時間を費やします。そして、「コンセプトとはみえないものと思われている。しかし素材のカタチがあるかぎり、カタチが逆にコンセプトのカタチを示す場合もある。」(菅木志雄、ノートからー思考の素状[1969年5月17日]、『Existence』)と自身が語るところに従って、直接的に素材に働きかける制作行為を伴いながら、<見えざるもの>をいかに素材のカタチに転換するか、という丁寧な推敲を繰り返します。こうして、最終的に作品は、純度の高いカタチを得るのです。菅が鑑賞者に期待することとは、そのカタチが選択されるまでに交わされた、菅と素材との間の緊密で静かな対話への関心であり、そしてそこから、鑑賞者自身が「もの」に潜む<見えざるもの>に気づき、「もの」との対話を始めることなのです。
もの派はアメリカのミニマル・アート、イタリアのアルテ・ポーヴェラなどと同時期に隆盛した美術動向です。60年代から70年代のアートシーンにおいて、世界同時多発的に、それまで作品の素材でしかありえなかった「もの」自体や、「もの」を知覚する人間へ目が向けられたということは、多くの美術批評家にとって魅力的な課題となり、2005年に国立国際美術館で開催された「もの派—再考」をはじめ、今日に至るまで多くの展覧会が企画されています。また今年の2月には、ロサンゼルスのブラム&ポーギャラリーにて、「太陽のレクイエム:もの派の美術」(キュレイション:吉竹美香、ワシントンのハーシュホーン美術館キュレイター)が行なわれ、もの派は今後、国際的な注目をより一層浴びることとなるでしょう。

» 展覧会について

本展覧会は、1970年代に菅木志雄が野外で制作してきた作品の写真と、レリーフ状の大作《景合周束》(1998年)、最新作で構成されます。
菅は、野外の至る所で作品を作ってきました。鑑賞者があるなしに関わらず、自然に最小限の手を加えることによって、その場で作品を出現させていったのです。今回展示する写真は、野外作品を菅本人が記録したものです。林の中や池など、自然な「場」の中で、作家と素材との対話が一層いきいきと行われているように思われます。《景合周束》は、山口県立美術館で1998年に開催された「対話篇─菅木志雄展」に出展されました。全長約40メートルにおよび、美術館の壁面は作品によって覆われました。オレンジ色に塗り込められた木製のパネルは、アルミニウムの棒で接続され、拡張し、展示空間をダイナミックに支配します。その作品を、今回はギャラリーの空間に新たにアレンジして展示します。そして、床面には最新作の作品が設置される予定です。
2008年2月に小山登美夫ギャラリーで開催されたアーティストトークで、菅は次のように話しています。

人間に内面の意識があるのと同様に、ものにも内心、内面の力、内面の構図があります。つまり潜在性ですね。潜在性を見れるか。あるいはどのように顕在化できるか。そこに意識がいかないと、ものはなかなか見えてこない。何を見ても、それは創造力の突端にあるんだと思っていないと、ものは創造的にはできない。

これは、菅が本展覧会のタイトルとした「潜態の場化」という言葉の意図を、そのままあらわすかのようです。この機会にぜひ、御高覧ください。

» 作家プロフィール

菅木志雄は1944年、岩手県盛岡市生まれ。68年多摩美術大学絵画科を卒業。68年の初個展から現在に至る40年以上のキャリアの中で、数多くの展覧会に出展してきました。
主な個展に「菅木志雄 – スタンス」(横浜美術館、99年)、「菅木志雄展」(広島市現代美術館から巡回、97年)など、小山登美夫ギャラリーでは08年以来3度目の個展となります。また、日本の歴史的なアーティストとして、第38回ヴェネチア・ビエンナーレ(日本側コミッショナー:中原佑介、78年)、「前衛芸術の日本」(ポンピドゥーセンター、86年)、「戦後日本の前衛美術」(横浜美術館からニューヨークのグッゲンハイム美術館へ巡回、94年)などの展覧会に出展しています。現在ロサンゼルスのギャラリー、BLUM & POEで開催中の展覧会「太陽へのレクイエム:もの派の美術」」に参加。作品は、東京都現代美術館ほか日本全国の美術館に収蔵され、最近ではテートモダーンにも収蔵されています。

  • installation view from "Placement of the Hidden Currents" at Tomio Koyamagallery, 2012 ©Kishio Suga photo by Keizo Kioku
  • installation view from "Placement of the Hidden Currents" at Tomio Koyamagallery, 2012 ©Kishio Suga photo by Keizo Kioku
  • installation view from "Placement of the Hidden Currents" at Tomio Koyamagallery, 2012 ©Kishio Suga photo by Keizo Kioku
  • installation view from "Placement of the Hidden Currents" at Tomio Koyamagallery, 2012 ©Kishio Suga photo by Keizo Kioku
  • installation view from "Placement of the Hidden Currents" at Tomio Koyamagallery, 2012 ©Kishio Suga photo by Keizo Kioku
  • installation view from "Placement of the Hidden Currents" at Tomio Koyamagallery, 2012 ©Kishio Suga photo by Keizo Kioku
  • installation view from "Placement of the Hidden Currents" at Tomio Koyamagallery, 2012 ©Kishio Suga photo by Keizo Kioku
  • installation view from "Placement of the Hidden Currents" at Tomio Koyamagallery, 2012 ©Kishio Suga photo by Keizo Kioku
  • 留石 Remaining Stone 2011 stone,wood h.36.3 x w.25.5 x d.27.5 cm ©Kishio Suga
  • 空態化-7 Emerging of Space-7 2011 stone,wood,steel h.47.5 x w.56.0 x d.55.0 cm ©Kishio Suga
  • 潜在空 Space of the Hidden Currents 2011 stone,wood h.45.5 x w.39.8 x d.34.5 cm ©Kishio Suga